[2020_09_24_09]核ごみ 揺れる神恵内、寿都の住民(北海道新聞2020年9月24日)
 
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核ごみ 揺れる神恵内、寿都の住民

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定で、文献調査応募の是非に揺れる後志管内の神恵内村と寿都町。地元商工会や首長らの積極姿勢の背景には、地方財政の見通しの厳しさや、人口の急減がある。住民らはこうした危機感に一定の理解を示す一方、これまでのまちづくりの方向性との断絶の恐れや、広がりかねない風評被害に戸惑っている。

神恵内で民宿 村存続の選択肢  「でも子供の未来が」

 現実を見れば村が生き残る方法はほかにないのかも―。でも村の魅力を掘り起こせば別の道もあるのでは―。人口約820人の神恵内村で村おこしに取り組んできた民宿経営の女性は、村の将来像がうまく描けず、悩む。
 7日夜、村商工会の臨時総会から帰った夫から、商工会が文献調査受け入れを村議会に請願することが決まったと聞いた。「もう決まったの?」。議題を知らされたのは臨時総会の1週間前。課題の重さと、その展開の早さに困惑した。
 村内では2012年、急激な人口減に危機感を抱いた若手が、まちおこし団体「神恵内村魅力創造研究会(魅力創研)」を設立。女性は事務局長として奔走し、特産品の販売イベントや、サクラマスを使った郷土食「マスカレー」の商品化などを次々と実現した。活動のかいあり、11年度に年14万5千人まで落ち込んだ観光客数は、19年度には20万人弱に回復した。
 仲間は現在、23人。村おこしに駆け回ってきた経験は大きな誇りだ。それだけに、これまでPRしてきた新鮮な海の幸や、美しい景観と相反するイメージの処分場を「手放しで歓迎する気持ちにはなれない」と言う。
 でも―。女性続ける。「ふとした瞬間、目の前の現実に不安になる」。後継者のいない商店。学年によっては児童が1人しかいない村唯一の小学校。5年間で1割以上減った人口。数年後の姿さえ、想像するのは難しい。「私たちは、村の本質的な問題は何ひとつ変えられなかったのかもしれない」
 処分場を誘致するなら、これまで続けてきた村おこしの取り組みを諦めることと同じとも感じる。「子どもたちは将来どう思うかな」「村の存続のためには仕方ない」「本当にほかの方法はないの?」―。縮みゆくふるさとを、どう守るのか。目をそらさず、仲間と一緒に考えたい。

寿都で漁業 町長を理解 「でも風評が」

 サケ定置網漁が本格化した寿都町。中心部から16キロ離れた美谷(びや)地区の漁業経営の男性は、不安をぬぐえないまま漁に出る日々だ。
 11日に開かれた「核のごみ」の地区説明会。男性は片岡春雄町長に思いをストレートにぶつけた。「海で商売している自分たちは何より、風評被害が心配だ」。片岡町長は、原発が立地する後志管内泊村で「風評被害は起きていない」と言い切ったが、男性は「寿都で実際にどうなるかは後にならないと分からない」と話す。
 片岡町長が文献調査への応募に意欲的な理由は、新型コロナウイルスによる地域経済への影響や、将来的な財政悪化だ。魚価は下がり、男性が生産するカキは飲食店からの引き合いが減った。近年は主力のホッケ漁も振るわず、厳しい経営を余儀なくされている。10年前に新造した漁船は、借りた購入資金の返済期限を5年延期してもらった。「漁業経営者として、町のかじ取りをする町長の気持ちは分かる」
 ただ、コロナの打開策として今春から始めた生産者から消費者へ直送するネット販売は好調。特産の「寿(ことぶき)かき」は、男性ら同地区の漁業者が中心となって20年かけて養殖技術とブランドを築いてきた。
 地域の基幹産業を支えてきた自負がある。男性は「町民はみな四苦八苦しながらもなんとかやっている。今、ただちに行き詰まっているわけじゃない。核のごみ以外の、他の方法を考える時間がある」と訴える。
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