[2020_08_25_01]寿都「核ごみ」調査検討の裏側に何が…かつて国に物申した橋本大二郎元知事「核燃料サイクルは破たん」(HTBニュース2020年8月25日)
 
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寿都「核ごみ」調査検討の裏側に何が…かつて国に物申した橋本大二郎元知事「核燃料サイクルは破たん」

 「核のごみ」の最終処分場の調査に応募を検討している後志の寿都町。町が検討を表明した背景には何があるのか、そしてかつて「核のごみ」をめぐり国側と戦った元知事はこの騒動をどう見ているのか取材しました。
 波紋が広がり続ける、寿都町の「核のごみ」問題。知事や周辺の町村からも慎重な検討を求める声が上がる中、片岡春雄町長(71)は「この議論で、一石を投じたい。一石を投じると、1つが10倍になって返ってくることは覚悟の上」と話します。

 そもそも「核のごみ」とは、何なのでしょうか。原子力発電で使い終えた燃料から、まだ使えるウランとプルトニウムを取り出した後に残る廃液のことで、ガラスと混ぜて「ガラス固化体」にします。その表面の放射線量は1時間当たり約1500シーベルトと、人間が20秒浴びただけで死に至る強さです。無害化するまで10万年がかかるとされ、国は「核のごみ」を地下300メートルより深くに埋める「地層処分」をすることにしています。
 寿都町内で30年近く水産加工業を営み、観光客向けの飲食店も経営するマルトシ吉野商店の吉野寿彦さん(60)は、「私はこういう観光、製造業をやっている立場では大反対」と町長の方針に異論を唱えます。特産のかきが食べられる飲食店には、旬の季節になると道内外から多くの客が訪れます。
 マルトシ吉野商店 吉野寿彦さん「(Q一番心配なことは?)やっぱり核のごみというとてつもない風評被害ですよ。お客さんも集中しますよね、情報が飛ぶから。それによって水産物の値段だとかも下がる」。
 寿都町は風の強い地形をいかし、自治体としては全国で初めて1989年に風力発電を設置するなど、エネルギー政策に力を入れています。年間で数億円の売電収入が町に入ってくる一方で、維持費もかさみます。さらに、基幹産業である漁業や水産加工業は、新型コロナで大きな打撃を受け、町の税収も落ち込むことが見込まれています。そんな中、片岡町長の頼みの綱となったのが、去年、経済産業省から受けた説明でした。
 寿都町 片岡春雄町長「町にはどんなエネルギーが風のほかに有効なのかと、道経済産業局、資源エネルギー庁の職員に来てもらい勉強会を去年からやり始めた。原発、最終処分の話を学んだときに、結構その交付金はおいしいものがあると」。
 調査の第一段階である「文献調査」に応募した自治体に国から支払われる交付金は、2年間で最大で20億円。町の先行きを考えると、魅力的な金額でした。
 寝耳に水だったのが、鈴木直道知事です。道には、2000年に制定された核のごみを「受け入れがたい」とする条例があります。鈴木知事は、この条例を理由に慎重な判断を町に求めています。
 鈴木直道知事「私はなぜいまなのかよくわかりません。10万年の先の将来を1カ月という期間で極端な話をすれば判断する。このことについて私は拙速だと思うし、慎重な検討をしてもらいたい」。
 国の制度そのものに、疑問を投げかける声もあります。「20億円という餌を市町村の前にぶら下げているだけ」と話すのは、元高知県知事の橋本大二郎さん(73)です。
 2007年、高知県東洋町の町長が、住民に説明せずに最終処分場の調査に応募。町を二分する議論となりました。知事だった橋本さんは「お金で釣るというのが本当に公募制度ですか」と語気を強めて国側に迫りました。
 東洋町は応募を取り下げ、これまでの13年間、調査に手をあげる自治体は出ませんでした。橋本さんは、核燃料サイクルを国策として進める以上、国が「核のごみ」の受け入れ先選びに責任を持つべきだと考えています。
 橋本大二郎さん「私個人は核燃料サイクルは破たんしていると思う。採算から言っても大赤字で国民につけをまわしている。そんなことにそれぞれの自治体がまじめに向き合う必要はない。国は最終処分場の場所を求める時に、北海道内というのは可能性のある土地として考えていると思う。また幌延という実験施設を持っていることから、過去のいきさつから言ってもそういう話が出てくる可能性があるということは意識しておいたらいいのではないかと思います」。
 国の原子力政策に一石を投じたのか、禍いを呼ぶ「パンドラの箱」を開けたのか。寿都町は、来月以降に最終判断をするとしています。
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