[2020_07_11_01]埋もれた声拾いたい 全国6400世帯の福島原発事故広域避難者を調査 関学大(毎日新聞2020年7月11日)
 
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埋もれた声拾いたい 全国6400世帯の福島原発事故広域避難者を調査 関学大

 関西学院大災害復興制度研究所(西宮市)が6月から、東京電力福島第1原発事故(2011年)による福島県外への避難者に対する全国調査を始めた。東日本大震災から来年3月で10年となるのを前に、県外避難者の生活課題を探る狙い。調査に加わる主任研究員の斉藤容子さん(41)は母子避難に関心を寄せ、「埋もれた声を拾い上げたい」と話す。【井上元宏】

 県外避難は、南海トラフ巨大地震など大規模災害でも予想され、課題を洗い出し、政策提案しようと企画された。福島県が県外避難者のために全国に設置し、情報提供や相談などをしている26カ所の生活再建支援拠点のうち17カ所の協力を得て、約6400世帯にアンケートを配布。暮らし向きや広域避難の理由などを質問している。全国規模の調査は福島大が11年に実施して以来、あまり例がないという。
 調査では、東日本大震災の避難者を支援する関西の団体や阪神大震災(1995年)での広域避難の状況を調べた研究者らが多様な視点で分析する。斉藤さんは、神戸市のNPO法人「CODE海外災害援助市民センター」で海外の被災地の支援に携わった。アフガニスタンでは女性だけの部屋に招かれ、顔を覆うブルカについて「嫌だ」と本音を告げられた。イランでは、災害で夫を亡くしたことで居住地証明ができなくなり、支援を受けられないと途方に暮れる女性に出会った。「私にしか見えない世界がある」と、人と防災未来センター(神戸市)などでジェンダーと災害を研究し続け、4月に主任研究員となった。
 福島第1原発事故では、地元などで職に就いていた夫と離れて避難した母子も多い。アンケートでは震災前と後の家族構成を尋ね、世帯単位で支給された新型コロナウイルスの特別定額給付金を受け取れたかも質問。できなかった場合の理由を選ぶ項目には、「避難元が知らせてこない」「避難元の家から断られた」を入れた。
 アンケートは8月に回収・分析し、結果を9月に各政党などに送付する予定だ。斉藤さんは「被災者がどのように生きたいか、選択肢があることが大切だ。広域避難は南海トラフ巨大地震などでも予想され、将来の災害対応につなげたい」と話していた。

 ◇東日本大震災による広域避難者

 復興庁が各都道府県の報告を集計した、東日本大震災の避難者は今年4月現在で4万4346人。うち福島県内から県外への避難者は3万211人。原発事故の避難指示区域外から避難した自主避難者については、福島県は2017年3月に住宅の無償提供を打ち切った。現在は同県大熊、双葉両町から強制避難した約1000世帯のみが21年3月まで継続されているが、延長は決まっていない。
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