[2020_07_10_02]金星が地球に近づくとき、なぜか、いつも同じ向き(島村英紀2020年7月10日)
 
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金星が地球に近づくとき、なぜか、いつも同じ向き

 月は世界中で同じ模様で見える。日本では餅つきのウサギがほとんどだが、国によってはカニやワニもある。これは月がいつも同じ面を地球に向けているからだ。
 これは月の自転が遅くなって、ついに止まってしまったことを意味する。月の公転と自転の周期は同じになっている。
 地球の隣の金星は太陽系で地球の内側を回っているので太陽から遠く離れることはない。明けの明星と宵の明星を繰り返している。太陽と月以外では最も明るい天体で、6月はじめ以来、明けの明星として、明け方の空に明るく光っている。
 金星は太陽に近く、また大気中に二酸化炭素が多いこともあって、地表での温度は500℃という灼熱の世界だ。いままで多くの探査機が地球から送り込まれたが、そのほとんどはこの高温の熱で死んで役目を果たさなかった。かつてあった海はすべて蒸発してしまった。地球の二酸化炭素が増え続けると、いずれは金星の世界に近づくのでは、と心配されている。
 金星はいつも厚い雲に覆われていて、地表が見えない。だが半世紀ほど前から、レーダーのおかげで、雲を通して金星の地表が見えるようになった。金星が雲に覆われたのっぺらぼうの世界ではなくなったのだ。
 そして奇妙なことが見つかった。それは金星が地球に近づくとき、いつも同じ向きを地球に向けていることだ。地球の反対側の隣の惑星、火星はそんなことはない。
 金星の自転は遅く、243日だ。一方、太陽のまわりを回る公転の周期は225日。それゆえ金星の一日は117日にもなる。じつは太陽系の惑星でも金星だけは逆に回っているから、太陽は西から昇る。逆なのは、昔、金星が巨大な隕石と衝突したからではないかと考えられている。
 金星が地球に近づく周期は金星の5.001日、地球の時間では584日だ。5.001はほとんど整数だから、いつも同じ向きを地球に向けていることになる。
 なぜ、いつも同じ向きを地球に向けているのかは、いまだに解けないナゾだ。地球の重力が金星を左右しているという学説もある。しかし距離はあまりに遠く、重力の変化もあまりに小さい。
 天体には、このように不思議なことがいくつかある。
 たとえば、日食は地球から見た太陽と月の大きさがたまたま一致しているから起きる。
 6月21日には世界各地で日食が見られた。日本では部分日食だったが、インドや中国、台湾では金環日食だった。今回と違って皆既日食になることもある。
 日本での次の日食は2023年4月20日で、九州南部や紀伊半島などで部分日食になる。2030年6月1日には北海道で金環日食が見えるほか、全国で部分日食になる。皆既日食は2035年9月2日、北陸から北関東で見える。
 だが月は年間3.5センチずつ、遠ざかっている。速さは地球のプレートなみだ。地球の周りをまわる回転のエネルギーが地球の重力による月の変形で失われているせいだ。
 いずれは皆既日食がなくなり、金環食だけが見える時代になるだろう。
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