[2020_06_26_09]雨が噴火や地震の引き金に(島村英紀2020年6月26日)
 
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雨が噴火や地震の引き金に

 梅雨の終わりごろの2018年の西日本豪雨や2017年の九州北部豪雨など、大雨が降って災害になることが多い。
 だが、それだけではない。雨が地震や噴火の引き金を引いてしまうという話が世界中にある。
 米国・ハワイ島のキラウエア火山で2018年5月に起きた噴火は200年間でいちばん大きな噴火だった。これは、その前の記録的な大雨がきっかけになった。米国・マイアミ大の研究者が4月末に世界的な科学誌に発表した。
 2018年のキラウエア火山では5月3日に噴火が始まり、同月4日にマグニチュード(M)6.9の地震が発生し、ついで17日に山頂カルデラ内の火口で爆発的噴火が起きた。活発な噴火と溶岩の流出が8月まで続き、数百軒の民家が溶岩に潰されたり溶岩の熱で燃えたりした。
 この噴火の前、同火山での1月から3月までの雨量は約2250ミリで、過去19年間のこの時期の平均雨量、約900ミリの2倍を超えていた。この多量の雨が山体の地下1〜3キロのところで岩石の間隙圧力を高めて噴火を起こしやすくしたのではないかと研究者は考えている。間隙圧力は過去約50年間で最大だった。
 以前にも例がある。1790年以降のキラウエア火山の噴火を調べたら、6割が雨期に始まっていた。また1924年には4月の大雨のあと、5月に大噴火が起きていた。雨とハワイの噴火とは深い関係があることを思わせる。
 1989〜1991年に記録的な爆発的な噴火をした米国西海岸のセントヘレンズ火山も、台風とそれによる大雨が通ったあとだった。カリブ海のモンセラート島で起きた2001〜2003年の大噴火も大雨のあとだったし、インド洋のレユニオン島の噴火も、大雨のあとが多い。
 大西洋の孤島、アゾレス諸島では雨が降ると約2日あとに地震が起きる。それぞれの地震は大きくはない。被害はなく、人々がびっくりする程度の地震だ。火山のカルデラに雨がしみこんで、その地下水が地震を起こすのである。
 アゾレス諸島は大西洋中央海嶺の真上にあり、アフリカプレートと南米プレートの両方が生まれているところだ。同諸島は7つの島からなるが、そのどれもが火山島だ。山頂に登ると、足下に深い火口がぽっかり口を開けていて足がすくむ。
 アゾレス諸島はポルトガル領の島で人口24万。島民は漁業や農業で暮らしている。
 日本でも、関西地方では山崎(やまさき)断層で、雨のあとで中小の地震が増えているという報告がある。山崎断層は岡山県東部から兵庫県南東部に延びる活断層だ。
 この報告では乾燥期の直後の雨や増水期に地震が多く、雨が降って3〜5日あとに地震が起きる例が多いという。
 じつは雨による地下の圧力の変化は、地震を起こす圧力よりはずっと弱い。それゆえ、雨が左右できるのは、地震や噴火がいまにも起きそうなときに「最後の引き金」を引くだけだろう。
 しかし、そのメカニズムは、まだ分かっているわけではない。
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