[2020_05_01_03]【社説】コロナ禍に考える 「複合災害」に備える(東京新聞2020年5月1日)
 
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【社説】コロナ禍に考える 「複合災害」に備える

 「百姓は、雨が降っても、日が照っても、風が吹いても、心配ばかしだて。びくびくするより能がねえ」
 黒沢明監督の映画『七人の侍』で、農民の長老がつぶやきます。野武士から村を守るために雇った侍たちにおびえ、村人たちが家にこもってしまう場面でした。

◆巣ごもりしてびくびく

 「ステイホームウイーク」と東京都知事が名付けた大型連休。人出減には地域差があるものの、東京、大阪、名古屋の都市部では一月中旬〜二月中旬の休日と比べ、80%以上減った日もありました。いわば巣ごもり連休です。昨年の今ごろ、改元で十連休が設定され、旅行やスポーツ、買い物などを謳歌(おうか)したのがうそのようです。
 さて、冒頭のせりふは、今私たちを取り巻く状況に、ちょっと似ている感じがしませんか。
 新型コロナウイルスの感染拡大にびくびくしている最中に、関東地方が先月、豪雨に見舞われ、岐阜県境に近い長野県中部を震源とする地震が先週から数十回続いています。首都圏でも今週、最大震度4の地震が起きました。
 三月末には「富士山の噴火で首都圏などに大量の火山灰」という予測が出ました。先日「日本海溝・千島海溝沿いにマグニチュード(M)9級の地震が起きれば北海道・東北・関東の太平洋岸に最大三〇メートルの津波」という恐ろしい予測も公表されました。
 もとより、駿河湾から日向灘沖にかけてを震源とする南海トラフ地震が「三十年間で70〜80%の確率で起き、最悪だとM9で死者数は二十三万人」ともされます。
 さらに、避難を要する豪雨や熱中症のシーズンもやって来ます。気象庁は二年前、「経験したことのない暑さは“一つの災害”だ」と述べています。
 災害時に受け皿となる避難所は「密集、密閉、密接」の「三密」状態になりがちで、感染症のリスクが高まります。過去の内外の例からも明らかです。
 一九九五年一月の阪神大震災では、三百人以上がインフルエンザなどで関連死したとする統計があります。二〇〇五年にハリケーン・カトリーナが直撃、最大百万人が避難した米国では、ノロウイルスなどにより千人以上に下痢と嘔吐(おうと)の症状が発生。東日本大震災と熊本地震でも感染症が出ました。
 今、考えるべきは、感染拡大の中での災害発生でしょう。避難所へ行かず、自宅などで身を守る「在宅避難」を評価する動きもあります。ただ、自宅の被害が軽微であることが大前提です。

◆感染回避よりも避難を

 名古屋大減災連携研究センター長の福和伸夫教授は「地震・津波でも風水害でも、命を守ることが最優先。感染回避よりも逃げることが大切」と訴えます。「ちゅうちょして命が危険になっては元も子もない」というわけです。
 むろん、そのためには、各自治体が避難所の環境を改善しなければなりません。
 内閣府は先月、避難所についての通知を自治体に出しました。それによると、まずは密集を避けるため、可能な限り多くの避難所を求めています。専門家は避難者のスペースを「一人当たり二メートル四方は必要」としています。
 避難所には学校体育館などに民間の旅館とホテルの活用を加えることも提案しています。学校の教室もいいでしょう。さらに、内閣府は親類や友人らの家への避難を推奨しています。
 避難所は、自宅と同等の衛生状態が理想です。マスクや消毒液の備蓄は品薄から厄介な問題ですが切らすわけにはいきません。体調の悪い人をホテルの個室に移す方策も必要でしょう。国の財政的支援も求められます。
 医療機関の防災も大切。先日、「全国三百七十二カ所の感染症指定医療機関の四分の一が、百〜二百年に一度の豪雨災害時に浸水する恐れがある」との京都大の調査結果が発表されました。感染症と洪水や地震・津波の「複合災害」に備えるため、早い時期に行政と病院の協力が求められます。

◆防災作業を楽しんで

 コロナと自然災害が複合する可能性がある以上、最低限の衛生用品確保など、私たちにも準備が必要です。マスクなどの流通は、一日も早く正常に戻さねばなりません。行政や企業など、関係機関の努力を求めます。
 通常の防災も忘れずに。自宅と周辺のハザードマップ(被害予測地図)は、スマートフォンで見ることができます。地震に備えて家具の固定を万全に。マンションの人は、津波や水害の際、上階の住民宅に「垂直避難」できるか、普段から聞いておきましょう。
 最後に、福和教授のアドバイスを。「防災の準備を楽しみましょう。びくびくしながらでなく、生活の一部にするのです」
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