[2020_03_18_02]関西電力、原発マネー問題の挽回担う新社長に社内外から失望の声(ダイヤモンドオンライン2020年3月18日)
 
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関西電力、原発マネー問題の挽回担う新社長に社内外から失望の声

 関西電力の岩根茂樹社長が3月14日付で辞任し、後任に森本孝副社長が昇格した。「原発マネー還流問題」を調査していた第三者委員会が最終報告書を同日に公表したことを受けてのトップ交代だが、森本氏へ再建を託すことに社内外から失望の声が上がっている。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

● 「関電の常識に染まり切った人」 関係者はそう吐き捨てた
 「二度とこういうことが起きないよう、最善を尽くすことが私の役割」。時折、用意された手元のペーパーに目を落として確認しながら、森本孝・関西電力新社長は就任の抱負を語った。自らの言葉で語ろうとしない姿は、電力業界にありがちな事なかれ主義の典型そのものに映った。
 関西電力の役員らが高浜原子力発電所に立地する福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から金品を受領していた問題を調査した第三者委員会は、3月14日午後2時から始まった会見で、約4時間にわたって最終報告書を説明した。この会見終了から約1時間後の午後7時、今度は森本孝新社長と岩根茂樹前社長が社長交代会見に臨んだ。
 このトップ人事、選出したプロセスにも、選出された森本氏に対しても、社内外から失望の声が上がっている。
 まずは、選出プロセスについてである。関電は第三者委から14日午前8時ごろに報告書を受け取った。そのわずか1時間後に、人事・報酬等諮問委員会を開催し、森本氏の社長昇格を決めた。
 世間から拙速だと突っ込まれかねないこのスピード決定に対して、岩根氏は「報告書を受け取る前から、新体制のスタートをいち早く切れるようできることはやってきた。確かに時間は短いかもしれないが、しっかり議論いただいた」と釈明する。
 森山氏から金品を受け取っていない森本氏が社長に就くことは、ほぼ既定路線だった。
 社外取締役らで構成する「人事・報酬等諮問委員会」は、昨年12月に次期社長について森本氏らを含む取締役6人から内部昇格させる方針を決定していた。
 しかも、昨年10月に岩根氏が社長辞任の意向を示して以降、森本氏は大手電力会社10社でつくる電気事業連合会の社長が集う定例会合には、関電の事実上の“顔”として出席していたのである。
 「緊急事態にある関西電力のイメージを人事で刷新する必要があった。それなのに関電の常識に染まり切った人に立て直しを託すことが、前提になっていた。世間から変わっていないと思われるだろうね」。関電関係者は、そう吐き捨てた。

● 森本氏が原発マネー問題を公表すべきだと 声を上げた形跡はない

 第三者委の報告書は、原発マネー還流問題について、関電のガバナンスが著しく欠如していたことを厳しく非難。但木敬一委員長は会見で「ユーザーから自分たちの行為がどう見られるのか。全く考えていない」とあきれ返った。
 そうした声を受けて、新経営陣をじっくり検討するというプロセスはなかったのである。
 もう一つの失望は、選出された森本氏本人に対するものだ。
 2018年1月末に原発マネー還流問題が発覚すると、関電は社内調査を実施して報告書をまとめた。岩根氏、前会長の八木誠氏、元会長で相談役の森詳介氏の3氏は、この報告書を外部に公表しないことを決定した。世間に知れ渡れば原発事業の運営が困難になるのを恐れ、隠蔽したのである。
 同年10月に実施された役員研修会で、原発マネー還流問題の概略が報告された。この役員研修会に森本氏は出席していた。詳細が説明されていないとはいえ、森本氏がこの研修会でこの問題をきちんと外に公表すべきだと声を上げた形跡は第三者委の報告書には見られなかった。
 つまり、森本氏自身も、第三者委が報告書で指摘する「身内に甘い脆弱なガバナンス意識」の持ち主ではないかという懸念が拭えない。
 こうした点を問われると、森本氏は「私は40年以上、関電で経験を積んできた。二度とこういうことを起こしてはいけないと改めて感じた。再発防止に努めることで、評価をしっかりいただけるよう取り組みたい」と弁明した。
 森本氏は営業・企画畑が長く、電力業界関係者によれば、手堅さや安定感に定評がある。大手電力会社で、出世する典型的な経歴とキャラクターを持つ電力マンだ。
 それをもってトップの資質を否定するものではない。ただし、第三者委が糾弾した「関西電力にはびこる内向きの企業体質」を変える変革者としての実績があるかについては、過去を振り返る限りでは、うかがえない。

● 会長は外部から招聘へ 水面下で打診

 第三者委は関電の内向きな企業体質を是正する切り札として、社外から会長を招聘するよう提言した。
 業界関係者によると、関電側はすでに水面下では関電社外取締役の井上礼之・ダイキン工業会長や元経済産業事務次官の北畑隆生氏、そして前経団連会長の榊原定征氏に会長就任を打診している。が、現時点では決まっていない。
 外部から超大物経営者を招いただけでは、意味がない。東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、事実上国有化されている東京電力ホールディングスを見れば、それは明らかだ。
 経営難にあった日立製作所をV字回復させた元日立製作所会長の川村隆氏は17年6月、三顧の礼をもって東電会長に迎えられた。しかし、大きな改革の成果を残せずに今期で退任する方針がほぼ固まっている。川村氏自身も「ステークホルダーが複雑すぎて、電力業界は難しい」と周囲に漏らしていた。
 川村氏ほどの名経営者ですら、大手電力会社を変革するのは至難の業だった。
 結局のところ、変わるかどうかは、関電自身にかかっている。森本新体制の最初の山場は、6月に控える株主総会である。ここで株主から信任を得るために、新体制としての成果物を出さなければならない。
 その舞台装置として新たに設けたのが、社長や副社長らで構成する経営刷新本部だ。審議内容について社外取締役を含む取締役会に報告した上で、第三者委の提言を盛り込んだ再発防止策をまとめ、改革をアピールするのが狙いだ。中途半端な再発防止策では、ステークホルダーからの信頼は得られないだろう。
 関電は大手電力会社の中でも原発依存度が高く、原発こそが収益の柱である。森本氏は「電源構成を変更する考えはない」と原発中心の会社運営を継続していく意向を就任会見で示した。
 原発の運営には立地自治体をはじめ社会からの理解が欠かせない。徹底的な再発防止と改革を実行しなければ、収益の柱である原発が崩れ、会社の存続すら危うくなる。

ダイヤモンド編集部/堀内 亮
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