[2020_01_31_05]【社説】南海トラフ津波 やはり「いつか来る」(東京新聞2020年1月31日)
 
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【社説】南海トラフ津波 やはり「いつか来る」

 南海トラフ地震が起きると、多くの沿岸市区町村に人命にかかわる津波が来る確率が非常に高い−。政府の地震調査委員会が公表した「津波評価」は、備えや避難の心構えをあらためて迫っている。
 「津波が来る確率」は初公表。三十年以内に南海トラフ地震が起き、高さ三メートル以上の津波が襲う確率は東京(島嶼(とうしょ)部)、静岡、愛知、三重、高知など十都県の七十一市区町村で「26%以上」とされた。数字だけ見れば「高くない」との印象も持たれそうだ。
 しかし、同委によると「三十年で26%以上」は「百年に一度」「今後三十年で交通事故でけがを負うリスク」に相当するといい、イメージは変わる。津波評価では「非常に高い確率」とも表現している。
 南海トラフ地震は「三十年以内に延長七百キロのトラフのどこかを震源に、70〜80%で起きる」と予測されている。調査委は今回の津波評価も「三十年」に合わせた。
 過去七百年間に実際に起きた地震データを基に、三十五万通りもの津波のパターンを予測。これを分母に、関東から九州までの沿岸市区町村別に、大地震が起きた場合の津波高の確率を計算した。
 「高さ三メートル」あると大津波警報が発表され、人が流されて木造家屋の全壊を招く。津波高五メートル以上が七都県二十九市区町村で「非常に高い確率」で起きることなども示された。
 政府は二〇一二年、南海トラフで最大級の地震を想定。「高知県黒潮町で最大三十四メートル」など、各地で巨大な津波が発生しうると発表した。しかし、この巨大地震は過去二千年間起きておらず、今回の津波評価では想定から外した。
 大がかりな津波対策をあきらめ、途方に暮れてしまう自治体もあるため、「そこまで大きくないが、大被害が予測される津波」の確率を示したという。
 むろん、避難タワーの建設や高台への避難経路整備などの対策を進める自治体は多いが、巨大地震想定に比べれば「穏やかな数字」が気にもなるようだ。一二年の予測で「最大十七メートル」とされた三重県尾鷲市は「『三メートルや五メートルなら大丈夫』と市民に受け止められてはいけない」と話す。
 予測や評価は、自治体や住民自身がその意味を十分に理解し、防災・減災に生かせて初めて存在意義がある。国は、「三十年で26%以上」の意味を誤解のないように自治体など行政にきちんと説明し、今後の対策に反映させていくことが強く求められる。

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