[2020_01_30_01]伊方原発で一時外部電源喪失。頻発するインシデントと、それらを軽視する擁護論者の完全なる誤り(ハーバービジネスオンライン2020年1月30日)
 
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伊方原発で一時外部電源喪失。頻発するインシデントと、それらを軽視する擁護論者の完全なる誤り

 四国電力伊方発電所3号炉は、去る1月17日に広島高裁によって下された山口ルート運転差し止め仮処分決定によって運転停止中です。このことは、全三回(1、2、3)の解説記事をご覧ください。

⇒【画像】 四電内で転倒したクレーン付きトラック

定期点検中だった伊方原発3号炉

 伊方3号炉は、2019年12月26日より第15回定期点検中(定検中)*ですので、仮処分にかかわらず2019年12月26日から2020年4月27日まで停止中です。今回の定検は、通常の3か月に比して長めの4か月です。この定検終了後は、広島高裁の仮処分の効力で、本訴判決が出るか、四国電力が保全異議申し立てをしてそれが認められるまで伊方3号炉は操業できません。さらに2021年3月23日以降は、特定重大事故等対処施設(特重施設)完成猶予期間の期限切れのために1年程度の操業停止が見込まれています。
〈*伊方発電所3号機 第15回定期検査の実施について2019/12/12四国電力〉

 筆者は、本来13か月運転、3か月定検で単純計算上の設備利用率81%から四か月定検により76%に低下し、更に特重期限切れのためにつぎの第16回定検周期では、設備利用率が平時換算で69%にまで低下することがやや気になりましたが、定検を慎重にやることは、いまの原子力業界には必要なことと思いあまり重く見ていませんでした。
 筆者は、伊方発電所では昨年のインシデント*が多いように思えていましたのですが、それが特重工事による作業量増加にともなう確率的なものか、なにか異常が起きているのか分からずにいました**。
〈*インシデント(incident)とは、通常からの逸脱や危機的状態など、人命や設備が失われる事故(アクシデント, accident)まで至らない事態等を言う。インシデントには妥当な訳語がない。安全工学や医療、運輸、セキュリティなどにおいては、インシデントとは極めて重要なもので、インシデント情報の収集と分析、結果のフィードバックは安全の柱と言える。:インシデント・アクシデントの重要性 日本内科学会雑誌 第101巻 第12号2012/12/10本間覚〉
〈**国内原子力・核施設でのインシデントやアクシデントについては、「トラブル」という日本原子力業界の方言によって原子力施設情報公開ライブラリーで公開されている〉
 大切なことは、どのように些細なインシデントであってもその情報を徹底して集め、公開・分類・分析し、フィードバックすることですが、実は日本人が最も苦手とすることです。またインシデントとアクシデントの分別も重要ですが、日本の原子力業界では、官民を問わず一丸となってすべてを「トラブル」という工学上全く無意味な言葉にまとめてしまう最悪の習わしがあります。この悪弊の原点は原子力船「むつ」中性子束漏洩重大インシデントを報道被害に矮小化したヒノマルゲンパツPA(JVNPA)による重大な悪影響であると筆者は指摘してきています。この件については、機会があれば将来論じますが、原子力インシデント、アクシデントの「トラブル」への言い換えは、原子力船「むつ」重大インシデントを起源とするJVNPAそのもので、極めて重大な弊害があり、福島核災害の原因の一つであることを指摘し、この言い換えは断じてやめるべきであると考えています。

伊方3号炉第15回定検中に発生したインシデント

 まず第15回定検中に伊方発電所で発生したインシデントについてすべてを見てゆきます。本稿では、インシデントの程度についても筆者の独自階級付けをしています。筆者は、人身事故の場合に階級を一段上げています。INES(国際原子力事象評価尺度)*とは全く異なるあくまで独自格付けですのでその点はご了承ください。
〈*INESは、日常のインシデント分類には、階級が荒すぎて使いもにのにならない。以下に例示するインシデントは、INESでは多くが評価対象外であり、最高でも0-(尺度以下)となる〉

1) 2019年12月27日:警備員の転倒による負傷(参照:四国電力)
 中度のインシデント(人身事故であるため)
2) 2020年1月7日:伊方発電所3号機 中央制御室非常用循環系の過去の点検時期誤 (今回発見されたインシデント) (参照:四国電力)
 中度のインシデント(記録と手順に関わるため)
3) 2020年1月12日:伊方発電所3号機 原子炉容器上部炉心構造物吊り上げ時の制御棒引き上がり(参照:四国電力)
 重大なインシデント(国内PWRでは初のインシデントと思われる)
4)、5) 2020年1月20日:伊方発電所3号機 燃料集合体の点検用ラックへの乗り上げと燃料集合体落下信号の誤発報 (参照:四国電力)
 中度のインシデント(燃料集合体のラックへの乗り上げ)
 重要なインシデント(燃料集合体落下信号誤発報)
6) 202年1月25日: 伊方発電所3号機18万7千V送電線からの受電停止(参照:四国電力)
 重大なインシデント(外部電源喪失であるため且つ伊方発電所特有の重大な脆弱性を強く示すため)
 以上、6件のインシデントが第15回定検中の伊方発電所で一か月間に生じています。列記したのはすべて中度以上ですが、これはヒヤリ・ハット事故*と称される軽度のインシデントは、数が膨大であり公表する価値がないとして公表されていないからと思われます。実際、翌月にまとめて発表される報告には、より多くのインシデントが記載されています。
 ヒヤリ・ハット事故については発電所、四電内ですべて把握し、分類、評価、分析、フィードバックが行われていれば良いです。それにより、より重度のインシデントが抑止されます。
〈*職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例 厚生労働省〉

伊方発電所でのインシデントは近年多いのではないか?

 この列挙した6件の報告されたインシデントは、その背後に膨大なヒヤリ・ハット事故が存在すると考えられます。そのことを勘案しなくても4週間で6件、うち2件が重大インシデント、1件が重要なインシデント、1件が人身事故というのは、インシデントが多発する事業所であり、状況は深刻であると考えるほかありません。 事業所の健全性を示す人身事故は、過去1年だけで10名(熱中症など体調不良含む、内1名は事業所と無関係の体調不良なので実数9、うち骨折など手術などを要するけが人2)ですので、ゼロ災という視点からは事業所の規模からも多いと思われます*。また少なくとも9名は協力会社警備会社の社員で残り1名は不明です。筆者は、情報開示の透明性という点では評価しています。
〈*従業員数千人規模の三交代制化学コンビナートでもゼロ災は年単位で継続するため、人身事故では事業所は大事になる。一方、労災のペナルティから、労災隠しも日常的に様々な事業所で起こりえる〉
 また、特重工事によって工事箇所が多い事を勘案しても2019年9月6日発生の鉄筋11本の20m落下*といった重要なインシデント(一般事業所では重大インシデントに相当)が発生しています。
〈*伊方発電所における工事用の鉄筋落下2019/09/13四国電力〉
 他にも工事現場の頻発常連インシデントであるからこそ起こしてはいけないクレーン付きトラックの転倒も2019年1月18日に発生しています*。
〈*「クレーン付きトラック転倒」時の通報連絡遅れに対する社内処分と改善策について2019/01/18四国電力:通報遅れは重要なインシデントだが、クレーン付きトラック転倒も一般に頻発することであり、インシデントとしては重要である。大分県庁がこのインシデントの詳細な報告を公開している(伊方発電所におけるクレーン付きトラックの転倒について2019/03 大分県庁)〉
 以上から、2019年を通してのインシデントの発生は、その質と量共に事業所の異常を示唆するのではという疑念を筆者は持ちましたが、統計処理をしたわけではありませんので、状況を注視することにしていました。

第15回定検期間中の二週間に集中して発生した3件の重大・重要インシデント

 そういった中、伊方発電所では、第15回定検を始めましたが、1月7日から1月20日にかけて重大インシデントと重要なインシデントが3件相次いで発生しました。
 これらは、制御棒クラスタ制御装置(CRD)に関わる国内PWRとしてはたいへんに珍しいおそらく国内初の重大インシデント、使用済燃料ピット内での移動中の燃料集合体の乗り上げと落下信号誤発報という重要なインシデント、そして一時的な所内外部電源喪失という重大インシデントと続きました。
 これらの重大インシデント、重要インシデントは、それぞれ別個の箇所で独立に生じたものです。
 これらのインシデントは、第二世代原子炉の冗長性の中でインシデントは終息し、所内外に大きな影響を与えることはありませんでした。しかし、通常からの著しい逸脱であることは明らかであって、個別に徹底分析することは必須です。これらから学ぶことはたいへんに多いです。今回は、これらのうち1月20日に生じた外部電源喪失重大インシデントについて概説します。

重大インシデントで明らかになった伊方発電所に残る脆弱性

 伊方3号炉は、すでに定検入りして二週間以上経過している原子炉ですので、仮に全交流電源喪失(SBO)に陥っても一週間程度の余裕がありますので、直ちに何か起こるという事はありません。放射能バウンダリ(封じ込め)も、短時間ならば封じ込めが破れるわけではありません。従って、このインシデントで所内、所外に何らかの大きな悪影響を及ぼすことは、ほぼあり得ません。
 一方でインシデントは、システムの弱点を写す鏡でもあります。従って、こういったインシデント、とくに重大インシデントが発生した場合は、極めて重要なシステム脆弱性点検の最大の機会であると考えねばなりません。そういった視点で見ると、今回の外部電源喪失重大インシデントは、伊方3号炉に残る特有の外部電源系における脆弱性が示されていることが分かります。
 例えば2020年1月20日に発生した外部電源喪失重大インシデントによって何が分かるか見てみましょう。
 筆者は、この重大インシデント後に伊方発電所の所内電力系統図を改めて見て強烈な違和感を持ちました。外部電源喪失重大インシデント発生以前には同じ図を見ても感じなかったものですので、インシデントから学ぶものはたいへんに大きいのです。
 伊方発電所所内電力系統図を改めて見た感想は、3号炉の外部電源に独立性という点で見劣りがし、不安定さを強く感じるというものでした。何らかの外部擾乱によって3号炉50万kV送電線が異常停止したとき同時に1,2号炉に何らかの大きな異常が発生した場合、3号炉は外部電源を失う可能性があります。
 筆者は66kV受電の入り口である亀浦変電所近辺でよく写真を撮影しますが、この66kV支線は、伊方発電所の緊急時における最大級の防衛拠点になるとたいへんに頼もしく思ってきました。
 ところが、この66kV平碆支線に3号炉は接続されていないのです。これには心底驚きました。
 これらの図から分かるように、現在の伊方発電所3号炉の外部電源には、四国電力と原子力安全委員会(当時)が共に認めた脆弱性が現在も残存しています。また北海道電力泊では、すでに対策がなされており、所内だけについては考え得る限り十分な冗長性を持っています。
 今回連続して発生した重要、重大インシデントの中で最後に発生した外部電源喪失重大インシデントは、明らかに今までに改善がなされなかった伊方発電所の脆弱性が現実の重大インシデントになったものです。

重大事故の背後には多くのインシデントが存在する

 工学上の経験則であるハインリッヒの法則*が示すように、アクシデント、重大事故の背後には多くの中度、軽度のインシデントが存在し、更に幾つかの重大インシデントが存在します。
〈*ハインリッヒの法則という極めて有名且つ常識となっている法則がある。簡単に言えば、事故(アクシデント)の背後にはその前兆事象として数多くのインシデントが存在するというものである。
 伊方発電所の場合、公開されているだけでも2020年のインシデントの多さが気になっていたが、第15回定検で僅か二週間に重大・重要インシデント3件という前代未聞のきわめて深刻な事態となっている。
 今後は、すべてのインシデントについて詳細な分析と対策をした上で職場を再建する他なく、これには数年を要するであろう〉
 特重工事中であるとは言え、インシデントの多発が疑われ、更に重要・重大インシデントが多数発生しているのが伊方発電所の現状であり、その運営、組織、設備に何らかの重大な問題が存在していると考えるのがハインリッヒの法則に従った基本的な考えです。
 勿論これは伊方発電所の存在を否定するものではなく、今後重大事故が起こらないようにするために、インシデントについて分析を徹底的に行い、抜本的な対策を行う事によって将来の重大事故は抑止されますし、日常におけるインシデントを減らすこともできます。
 インシデントはその組織の鏡です。鏡に映った姿は真の姿であり、真摯に受け止めることが必須と言えます。
 例えば福島核災害を起こした東京電力福島第一原子力発電所ですが、福島核災害のわずか9か月前に2号炉外部電源喪失と原子炉水位の2m低下(福島核災害後の2011年5月まで非公表)という極めて重大なインシデントを起こしながらわずか1か月で、協力会社社員の肘鉄(ひじてつ)が原因という報告を出して操業再開しました*。これは福島核災害には直接は関わりませんが、このような極めて重大なインシデントすら隠蔽し、軽視する当時の東京電力の実態を示しています。事実、2011年3月11日に東京電力はなすすべも無く人類史上最悪と言える核災害を起こし、僥倖といえるいくつもの偶然と幸運がなければ、カスケード核災害(連続核災害)によって東日本の大部分を日本は失うところでした。
〈*福島第1原発、2010年にも電源喪失事故 2011/06/15ウォールストリートジャーナル・ロイター〉
 インシデントを軽視する事業者は極めて危険かつ有害です。

そろそろ全く無意味な「トラブル」はやめませんか?

 ここまで重大インシデント1件をとりだして概説しましたが、それによりインシデントの評価と分析、それによるフィードバックがいかに重要かはよくおわかりいただけたと思います。
 今回の重大インシデントでも、平素「科学リテラシー」やら「ニセ科学批判」やらでご活躍の方々が、「非常用DG(ディーゼル発電機)があるから騒ぐな」「非常用DG動いたからダイジョウブ」「騒ぐ奴は情弱」「伊方は安全です」などと大言壮語をなさっていましたが、これらは原子力安全の論理からは完全に誤っています。
 非常用DGは、多重防護の第2層から第3層に相当するもので、同じく第1層から第2層に該当する外部電源の受電継続の後段に相当します。多重防護は前段否定の原則がありかつ、原則として相互独立でなければなりません。
 簡単に言えば、受電が多重化されているからDGはスペックを下げても大丈夫とか、10秒で起動する非常用DGがあるので外部電源喪失しても大丈夫という考えや発言は、多重防護の原則に著しく反してしており、完全に間違えています。
 福島核災害当時にはそのような完全な誤った考えで大暴れする連中が、3月11日の段階で「福島第一はもう安全です」「核物理学を知らない奴は黙っていろ」(原子力発電所の過酷事故は熱力学が主役であって核物理学は端役)「騒ぐ奴は情弱」「馬鹿は黙ってろ」などと暴言と共に徒党を組んで暴れに暴れ回りました。筆者はこういう連中をヒノマルゲンパツ酷死(国士のもじり)と徹底糾弾してきました。
 今回もそのような愚行を行う連中が跋扈したことに激しい嫌悪感を覚えます。それらの中には、今回もエエ歳こいた学位持ちも見受けられ、その学習能力の無さにと激しい自己顕示欲には驚愕します。少なくとも自分の専門外を論じるときには、きちんと事実を抑え、特に原子力については、原子力安全の考え方について基本中の基本を抑えてほしいものです。「無知の知」は知の根幹です。
 短期間で複数の重大・重要インシデントを起こした四国電力は、その重大インシデントから学習し、それにより新たな決断を行い、伊方発電所をより安全に改修することができますし、それに強く期待します。四国電力が第15回定検を一時中止した*ことは大英断と言えます。
〈*伊方原発で停電トラブル 定期検査を中断―四国電力2020/01/26時事通信〉

 ここまで述べてきたように、インシデントとアクシデントの切り分けとインシデントの階級付け、分類、分析、フィードバックは安全の基本中の基本です。既述のように原子力船「むつ」中性子束漏洩重大インシデントを矮小化するという愚行のために原子力・核施設でのインシデントとアクシデントは、工学的に全く意味を持たない「トラブル」という無意味な言葉にまとめられてきました。
 これによる弊害は、一般市民だけでなく、政治家、学者、役人、メディア人士にも蔓延し、電力・原子力屋までが冒されています。筆者はこれを「ヒノマルゲンパツPA自家中毒」と酷評してきています。このような日本特有の極めて有害な悪弊からは、直ちに脱却せねばならないと考えます。
 今回はここまで、全体の概説を行いました。

◆伊方発電所3号炉第15回定検における重大インシデント多発(1)

<文・写真/牧田寛>
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