[2020_01_21_01]青天の霹靂だった伊方原発3号炉差し止め仮処分決定。予想される影響は?(HBO2020年1月21日)
 
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青天の霹靂だった伊方原発3号炉差し止め仮処分決定。予想される影響は?

伊方原子力発電所3号炉運転差し止めの仮処分が決定
 去る1月17日広島高等裁判所にて伊方原子力発電所3号炉運転差し止めの仮処分が決定しました*。
〈* 四国電伊方原発の運転差し止め仮処分を決定−株価は8%超下落, 2020年1月17日 14:10 JST, Bloomberg〉

 伊方発電所3号炉は、仮処分決定によって即日運転ができなくなりました。差し止め期間は、現在山口地方裁判所岩国支部で係争中の本訴判決が出るまでとなります。
 筆者は、最近の原子力発電所関連の司法判断が福島核災害前のヒラメ判事*大発生に戻っているためにすっかり関心を無くしていたので、この決定にはたいへんに驚きました。四国電力もまさか差し止め判断が出るとは思っていなかったのではないでしょうか。
〈*ヒラメ◎◎:裁判官の人事を握る最高裁事務総局や政権、財界の顔色ばかり伺って合理性のない無茶な判決や決定を出す判事をヒラメ判事と呼ぶ。由来は、ヒラメの目が2つとも上向きで「上しか見えない」というところから。司法の独立性が脅かされている日本で大量発生し、司法の公正さを著しく損ねているとされる。「ヒラメ◎◎」は、上役の顔色ばかり窺う者を示す言葉としてよく使われる応用範囲の広い言い回しである。ヒラメ教員、ヒラメ社員など〉
 今高裁決定は、筆者にとって腰痛で寝込んでいるのに飛び起きてしまうほどに青天の霹靂とも言えるものでした。
 今回から数回にかけてこの伊方発電所3号炉運転差し止め決定についてその位置づけや影響、今後について解説します。

差し止め決定の概要

 今回運転差し止め判断がなされた伊方発電所運転差し止め仮処分申立は、山口県において2017年12月27日に提訴された伊方発電所運転差し止め本訴(山口地方裁判所岩国支部)にかかわるものです。本訴の原告は、伊方原発を止める山口裁判の会で、被告は四国電力となっています。仮処分申し立ては、山口県側の瀬戸内海島嶼部在住の3人によるもので債務者が四国電力です。

 仮処分請求は、本訴結審までに原告の利益が脅かされる場合に認められるもので、効力は本訴判決までです。一方で、仮処分に当たっては原告側に被告の損失に対する担保の提出が求められることがあり、また仮処分が認められた後本訴で棄却が確定した場合、損害賠償を請求される可能性があります。

 伊方発電所運転差し止め仮処分は、2017年3月3日に山口地裁岩国支部に申し立てられましたが、2019年3月15日に却下され、原告側即時抗告により広島高裁にて争われていました。

 去る2020年1月17日に原告の主張を認め伊方発電所3号炉の運転差し止め決定がなされましたが、四国電力は「極めて遺憾で、到底承服できるものではない」とし、速やかに不服申し立ての手続きを行う方針です。

 今回の仮処分決定の要旨主文は次のようになります。(括弧)内は、筆者注。
1 原決定(山口地裁岩国支部による却下)を取り消す。
2 相手方は,本案訴訟の第一審判決の言渡しまで,愛媛県西宇和郡伊方町 九町字(くちょうあざ)コチワキ3番耕地4 0番地3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。

 これによって伊方発電所3号炉運転は、運転が差し止められました。決定は即日効力を持ちますが、伊方発電所は2019年12月26日より第15回定期検査(定検)のために運転を停止中*ですので定検終了予定の2020年4月27日までに決定が翻らなければ新たな決定が出るまで原子炉の運転はできません。
〈*伊方発電所3号機 第15回定期検査の実施について2019/12/12四国電力〉

 また、決定理由要旨の最後にこのようにあります。

”5 保全の必要性及び担保の要否
(2)本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分手続であるから,相手方に運転停止を命じる期間を,本案訴訟の第一審判決の言渡しまでと定めるのが相当である。
(3)本件においては,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。”

 従って本仮処分決定の効力は、本訴第一審判決申し渡しまでとなります。また、原告側は担保を提出する必要はありません。この担保提出不要の決定は重要で、すでに十分な判例が蓄積しつつあるといえます。仮に本訴棄却決定した場合には、四国電力が損失に対する損害賠償請求をしたとしても、1日停止あたりの送電端価格売り上げ減約3〜4億円(年間約1000〜1500億円)であり、差し止め請求原告団からは提訴時に要する収入印紙代すら回収できませんので全く無意味です*。
〈*政府や電力によるプロパガンダと異なり、現実の発電原価で比較すると原子力発電の発電原価は、石炭・ガス火力発電に比してきわめて高価となるため、電力会社にとり深刻なやぶ蛇訴訟となりかねない〉

 今回決定を含め前回の広島地裁仮処分決定(広島差し止め訴訟)、高浜発電所運転差し止め仮処分決定(大津地裁)などで同様の決定が積み重なっていますので、原子力発電所などの産業施設運転差し止め請求のハードルが大きく下がるものと思われます。

差し止め仮処分決定の影響

 四国電力伊方発電所3号炉は、去る12月26日より来る4月27日までの長めの4ヶ月間の定検ですので、本仮処分決定は、直ちに影響はありません。

 また定検期間は、去る2020年1月13日に発生した重大インシデントである制御棒クラスタ引抜インシデント*によって1カ月前後延長される事が予想されます。
〈*規制委員長「前例なし」 異例のトラブルと強調2020/01/15愛媛新聞、制御棒を誤って引き抜き 伊方原発センサー反応せず20/01/13 ANN〉

 山口地裁岩国支部での本訴は、現時点で2019/10/17に第5回口頭弁論期日でしたので、判決までには相当の長期間を要すると見込まれます。従って四国電力による保全異議を申し立てられることになります

 この保全異議申し立てが実質的な最終判断となり、保全異議の決定に対しては、憲法違反などの場合を除いて不服申立てを行うことができません*。最高裁は、事実認定をする場ではありませんので、憲法判断が関わる場合を除き原則として仮処分申し立ては高裁でおわりとなります。
〈*仮差押え・仮処分に関する不服申立手続について 即時抗告・保全異議・保全抗告とは2017/12/18関口法律事務所〉

 過去の仮処分は、同様な電力側による異議申し立ての場合、10ヶ月程度で判断が出ていますので四国電力による異議申し立ては、年内に判断が出ると思われます。ここで異議が却下されれば差し止め仮処分は確定し、本訴判決が降りるまで相当な期間、伊方発電所3号炉は運転できません。

四国電力による異議申し立てが認められた場合は?

 それでは仮に四国電力による異議申し立てが認められ、仮処分が棄却された場合はどうなるでしょうか。この場合、その後1月程度の準備期間をおいて伊方3号炉は運転開始できます。良く勘違いされていますが、停止中の原子炉は、運転準備に2週間から1月程度の時間を要します。また運転準備しながら見込み違いで運転できなくなると大きな額のお金を無駄にします。
 仮に10月に運転開始した場合、2021年11月まで運転できる事になりますが、実際にはそうではありません。2021年3月には原子力規制委員会から停止命令が出て、その後1年以上(1〜2年程度)のあいだ、運転ができません。
 これは四国電力の見込みの誤りによる特定重大事故等対処施設(特重施設)建設大幅遅延によるもので、四国電力の責に帰するものです。
 2015年の九州電力川内原子力発電所に始まり、現在稼働中の原子力発電所はすべて特重施設の建設が再稼働に間に合わないために例外的に5年の猶予期間を原子力規制委員会より与えられています。この猶予期間までに特重施設建設が終わらない場合、猶予は取り消され、運転停止命令が出されます。

 伊方発電所の場合、2016年3月23日に伊方発電所3号炉の新規制基準への適合性に係る工事計画認可がでており、期限は2021年3月22日となっています*。この期限内に特重施設が完成していない場合、即日運転停止命令が出る事が原子力規制委員会より表明されています。このことを巡っては、もともと工事が間に合わない事がわかっていた電力業界や経団連が盛んにさらなる猶予を原子力規制委員会に求めていましたが、昨年4月24日に原子力規制委員会が、さらなる猶予は認めないと決定しました**。
〈*伊方発電所3号機の新規制基準への適合性に係る 工事計画認可について2016/03/23四国電力〉
〈**テロ対策施設、未完成なら原発停止 再稼働原発の停止も2019/04/24朝日新聞〉

 結果として現在稼働中の原子力発電所はすべて、5年の猶予期間切れで順次停止し、電力会社の発表では1〜3年、おそらく2〜5年程度の運転停止に追い込まれます。

 伊方発電所3号炉の場合、2021年3月22日を持って運転停止となりますので、実は計画通り4月27日に定検終了、運転開始しても運転期間は本来の13ヶ月でなく11ヶ月足らずで停止となり、この運転周期の設備利用率は17%も損なわれます。

 実際には、今回の仮処分決定によって早くとも運転開始は2020年11月頃、運転停止が2021年3月22日ですから30%足らずのきわめて低い設備利用率となります。更に運転期間は電力需要のあまり多くない期間となりますので、経済的にも運転を行う意味があまりないという事になります。

 伊方3号炉は、2016年8月の操業再開から特重期限切れに伴う運転停止あけまでの6〜7年間の設備利用率が40%前後と著しく低迷します。2011年から2020年までの10年間設備利用率は30%足らずとなります。1994年12月15日の運開から2020年末まで26年間の設備利用率は、60%前後と予想されます。その後2021年3月からの猶予期間切れによる運転停止を含めると1994年12月から2034年末まで40年間の平均設備利用率は、最善でも65%前後になると予想されます。これはきわめて悪い数値です。

 合衆国などの事例をみれば、生涯設備利用率が60%を割り込む原子力発電所は経済性を失い、廃止となる可能性が高くなります。福島核災害後の日本の場合、原子力発電所は数千億円という当該原子炉の建設費を上回る規模の投資を要していますので、経済性獲得のための最低設備利用率はずっと高い数値が求められます。
 福島核災害前までは、比較的運転成績の良かった伊方3号炉ですら投資額の巨額化と生涯設備利用率の低迷によって経済性を喪失する可能性が高いことはたいへんに深刻です。
 福島核災害後に莫大な投資を行う事によってたいへんに高コストとなっている日本の原子力発電所は、環境の激変によって産業施設としての経済的合理性を喪失していると思われます。
 漫然と従来の手法を踏襲する事によって環境の変化に対応できず、破滅的失敗をする事は日本の組織にきわめて特徴的な事で、これは『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』*において厳しく指摘されてきた事であって、日本の企業経営者の常識です。
〈*『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』, 1984/05/01 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 ダイヤモンド社(文庫版は中公文庫):日本軍は、過度の環境適応によって、官僚的組織原理と属人的ネットワークで意思決定と行動する事に固定化していた。このため新たな学習と変化した環境への適応をする能力が著しく欠落し、自己革新と合理性の追求ができなかったために破滅したと結論している〉
 この極めて常識的な失敗を繰り返しつつある電力会社が、日本社会に抱きつき心中をしている、かつての日本軍と同じ愚行が進行しています。
 本稿では次回から、詳細について論じてゆきます。
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