[2019_11_05_01]熊本で再び大地震も 「震度7クラス、確実」 日奈久断層帯「ひずみ」残る 九州大など活断層調査 やっておきたい備えは クロくま編集部(クロス熊本2019年11月5日)
 
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熊本で再び大地震も 「震度7クラス、確実」 日奈久断層帯「ひずみ」残る 九州大など活断層調査 やっておきたい備えは クロくま編集部

 熊本県内で、熊本地震のような大地震はまた確実に起きる−。
 2019年10月、熊本日日新聞に、九州大が中心となって2016年の熊本地震以降3年にわたり進めてきた活断層の調査結果が掲載され、「また大地震が来るのか」と大きな反響を呼びました。
 今回の調査で何が分かったのか。家庭ではどのような備えをしたらよいのか。これまでの熊日掲載記事を加筆・再構成して、分かりやすくお伝えします。自宅の耐震化に関する熊本県や市町村の助成制度に関する情報も紹介します。

※情報は2019年11月1日時点。活断層調査に関する記事は2019年10月14、18日付に掲載。取材は熊日文化生活部・松本敦編集委員です。家庭の防災点検に関する記事は2018年4月14日付別刷り特集に掲載。取材は清島理紗記者です。

        index

1 「いつ起きてもおかしくない」
2 断層とは? 活断層とは?
3 過去の大地震の発生年代、活動間隔を推定
4 熊本や八代の平野部で大きな揺れ、宇土半島、天草上島の一部も
5 今の科学では時期は予知できない
6 自宅の耐震化 熊本県や市町村は助成制度
7 備蓄に安全確認 わが家の防災、再点検を(チェックリスト付き)
高齢者は水と薬、説明書だけでも常備
非常食は3日分
軒下にペットボトル入り生活用水
収納棚にロック
床に物を置かない
ベッドには靴、明かり

「いつ起きてもおかしくない」

 今回の調査は、文部科学省の委託で、研究者代表の清水洋・九州大教授がセンター長を務める九州大地震火山観測研究センター(長崎県島原市)を中心に、産業技術総合研究所、京都大防災研究所などが行いました。調査では、熊本地震の震源域とされ、多くの活断層を抱える布田川断層帯(南阿蘇村立野付近〜上天草市大矢野町の約66キロ)と日奈久断層帯(益城町〜水俣市西方沖の約86キロ)の活動区間と活動周期を明らかにしました。二つの断層帯の位置を示す地図がこちらです。

断層地図
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 熊本地震では、マグニチュード(M)6.5と7.3の地震が発生しました。今回の調査の結果、布田川断層帯の布田川区間(南阿蘇村−益城町)は、次なる揺れを引き起こす「ひずみ」を熊本地震により完全に解消しましたが、日奈久断層帯で動いた高野−白旗区間(益城町−宇城市豊野町)は周期的な大地震に数えない断層崩壊にとどまり、「ひずみ」がたまった状態にあるそうです。清水教授は「布田川区間で予想される次の大地震は2千年ほど先ですが、日奈久断層帯ではいつ起きてもおかしくありません」と指摘します。
 今回の調査で分かった、日奈久断層帯で大地震が発生した際の熊本県内各地域の推定震度の分布図がこちらです。

予想震度
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断層とは? 活断層とは?

 ここで、「断層」と「活断層」について説明します。
 断層とは、地面の深い部分で地層が切れている部分を指します。地下にある「傷」のようなもので、もろい部分です。こういった断層のうち過去に繰り返し活動し、将来も活動する可能性がある断層を、活断層といいます。
 現在、日本では2千以上の活断層が見つかっています。熊本地震では、益城町や南阿蘇村などで布田川断層帯の活断層が活発な活動し、建物や農地に大きな被害を与えました。

布田川断層帯の活断層
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熊本地震で、農地に露出した布田川断層帯の活断層。地層のずれにより、真っすぐだったあぜ道が変形した=2019年4月撮影、益城町津森地区

 活断層の話になると、「自分の住んでいる場所が活断層にかかっているか知りたい」と思う人もいるはずです。しかし、地中深くにある活断層がどの場所にあるかを精密に特定することは非常に困難です。また、「活断層がすぐ近くにないから地震があっても安心」と言えないことは、熊本地震で広い範囲で大きな被害が出たことが如実に物語っています。

過去の大地震の発生年代、活動間隔を推定

 今回の活断層調査では、日奈久断層帯に沿ってトレンチ(溝)やボーリング調査を行いました。地層のずれから大地震の痕跡を探し出し、直近で起きた大地震の発生年代(最新活動時期)や平均活動間隔などを推定しました。

活断層
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産業技術総合研究所が八代市川田町で実施した日奈久断層帯日奈久区間の調査でみつかった活断層。黒っぽい地層などが上限方向に約1メートルずれていた=2018年12月撮影

 その結果、区間別に最新の活動時期と平均活動感覚を次のように割り出しました。

日奈久断層帯の主な活動履歴(一部区間のみ)
※引用者注:表は省略

熊本や八代の平野部で大きな揺れ、宇土半島、天草上島の一部も

 今回の活断層調査の前まで、日奈久断層帯は3区間とされてきましたが、調査結果を踏まえ、高野−白旗区間(約16キロ)、日奈久区間北部(約18キロ)、同南部(約25キロ)、八代海区間(約24キロ)の4区間ととらえることになりました。断層の構造から、日奈久区間を新たに北部と南部に分割したためで、清水教授は「それぞれの区間が単独で動くケースでは、従来の予想より地震の規模はむしろ小さくなる」と言います。
 問題は、日奈久断層帯全域が連動して動いた場合です。最大M8.1の大地震が想定されるといいます。
 どの区間から破壊が始まり、どのように揺れが伝わるかによって、各地の揺れの大きさは異なるため、今回、熊本県内12市19町4村を含む約100地点で地盤の強度も調査。高野−白旗区間から破壊が始まり全区間に連動した場合、熊本から八代にかけて平野部のほぼ全域に加え、宇土半島と天草上島の一部で震度6弱以上の大きな揺れが予想されることが分かりました。

宇土市役所本庁舎
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熊本地震で外壁の柱にひびが入るなど損壊した宇土市役所本庁舎=2016年4月16日

今の科学では時期は予知できない

 清水教授は「震度7クラスの地震は確実に起きる」といいます。ただ、発生時期は、1年内かも知れませんし、1千年後かも知れません。
 今回、最新の機器と分析手法を使った地下探査で、過去の大地震の周期や規模を丁寧に探り、活断層の実像に迫りました。ただ、過去の痕跡は大地震が必ずまた起きることは教えてくれるが、正確な時期やその規模まで明らかにすることはできません。
 「残念ながら今の科学では地震を予知することはできません。ただ、大地震は必ずまたきます。それがいつかは分からないから、私たち地震学者は何度でも啓発し続けるしかありません」。清水教授は言います。

清水洋・九州大教授
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布田川断層帯や日奈久断層帯の調査チームの研究代表者である清水洋・九州大教授

 清水教授は、熊本地震の発生前にも、熊本で講演する機会があり、大地震に備える必要性を訴えたことがあったそうです。大地震の度に繰り返される人的被害。啓発は届いていたのだろうか−。地震学者として無力感を感じることさえあったという清水教授は「日奈久断層帯のひずみはたまったまま。熊本地震と同程度の地震は確実にあります。これだけは覚えておいてほしい」と力を込めました。

自宅の耐震化 熊本県や市町村は助成制度

 それでは、大地震に備え、私たちはどのような対策を取ればいいのでしょうか。清水教授は「いたずらに地震を恐れず、自宅を耐震化するだけでも違います。特に寝室だけでも耐震化すれば命を守ることができます。ぐらっときたら、その部屋に逃げ込めばいいんです」と指摘します。
 熊本県と県内市町村は、自宅の耐震診断や耐震改修の助成制度を設けています。詳しくはこちらをご覧ください。
https://taishinka.bhckuma.or.jp/

備蓄に安全確認 わが家の防災、再点検を(チェックリスト付き)

 耐震化以外にも、家庭で災害への備えを見直す点はないでしょうか。2018年4月14日付の「熊本地震2年」別刷り特集に掲載した、日本防災士会熊本県支部所属の防災士・市下潤子さん=甲佐町=のアドバイスをあらためて紹介します。

https://crosskumamoto.jp/article/11733/
防災用品を詰めたバッグを背負う市下潤子さん=2018年3月撮影、甲佐町

市下さんのアドバイスを基に作成した「家庭での備蓄品リスト」と「自宅での防災のポイント」がこちらです。
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高齢者は水と薬、説明書だけでも常備

 備蓄に関して市下さんは「全部いっぺんにそろえようとすると面倒です。自分の年齢や家族形態、地域の事情に合わせて、必要なものを少しずつそろえてください」と助言します。例えば、高齢の方は、最低限、水と薬、薬の説明書を準備するだけでも役に立つそうです。

非常食は3日分

 市下さんが備蓄している非常食はおよそ3日分。台所の食器棚などに用意しており(写真下)、料理に手が回らない時に食べると便利だそうです。

軒下にペットボトル入り生活用水

 市下さんは、自宅の軒下にペットボトルに生活用水を入れて保存しています(写真下)。車内にも保存食や薬用品、ラジオなどを積んでいます。
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収納棚にロック
 自宅内で地震に遭った場合、転倒した家具や散乱した物が避難の妨げになります。市下さんの家では、収納棚の扉がひとりでに開かないよう簡易なロックを装着しています(写真下)。
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床に物を置かない
 このほか家具や家電製品は耐震マットや突っ張り棒で転倒を防止。ふだんから床に物を置かないのも大切なポイントだそうです(写真下)。
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ベッドには靴、明かり
 「熊本地震の際は素早くベッドにもぐり、靴をつかみました」。市下さんはいつも、ベッドの下に履き慣れた運動靴とスリッパを置いています(写真下)。
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 このほか枕元にはランタンと、SOS救難信号の点滅ができる懐中電灯も置いています。停電だけでなく、自宅が倒壊したり、家具が倒れたりして、身動きできなかった時に、助けを求めるのに役に立ちます。
 「備蓄や逃げ道の確保を考えることが、自分の命を守ることにつながります」と市下さん。
 熊本地震から3年半が過ぎました。当時の大変な思いをされた方も、幸い被害がなかった方も、防災士さんのアドバイスを基に、少しずつでもいいので着実に災害の備えを進めてはどうでしょうか。
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