[2019_10_23_02]台風大雨で除染廃棄物54袋流出 2015年に前例 教訓生かせず(東京新聞2019年10月23日)
 
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台風大雨で除染廃棄物54袋流出 2015年に前例 教訓生かせず

 台風19号の大雨の影響で二十一日までに、東京電力福島第一原発事故後の除染で出た廃棄物を入れた袋「フレコンバッグ」が福島県内の仮置き場四カ所から計五十四袋も河川に流出したことが確認された。同県飯舘村では二〇一五年九月にも四百四十八袋が流出しており、再発を防げなかったことに批判の声が上がっている。(稲垣太郎)

◆4年前にも448袋が流出していたのに…

 「前例があるのに教訓が生かされていない」。震災が起きるまで福島県飯舘村で酪農を営んでいた長谷川健一さん(66)はそう憤る。前例とは一五年の流出のことだ。
 一五年九月の関東・東北水害で、飯舘村ではフレコンバッグ四百四十八袋が流出。仮置き場に運ぶ前に、現場近くに置いてあったものが河川の増水で流されてしまった。
 環境省は一三年に、除染土を詰めたフレコンバッグの仮置き場での管理方法などのガイドラインを策定済みだった。しかし一五年の大量流出を受け、「仮置場等維持管理補修マニュアル」を改訂し、流出防止策を強化していた。ただ、このマニュアルは環境省直轄の仮置き場が対象で、市町村の仮置き場は対象外だったという。

◆対策シート「かぶせ直す余裕なかった」

 今回の台風19号では国が管理する飯舘村の仮置き場から一袋、田村市の仮置き場から二十袋、二本松市の仮置き場から十五袋、川内村の仮置き場から十八袋が流出した。
 田村市生活環境課原子力災害対策室の渡辺庄二室長は、国のマニュアルではなく県が策定した指針に従って管理していたが、「下部と上部のシートでフレコンバッグをくるんでいたが、運び出すために九月から上部シートを取っていた。市内では河川の氾濫など予想を超える被害が出ており、上部シートをかぶせ直す余裕もなかった」と話す。

◆環境省「水質や空間線量に影響確認されず」

 流出したフレコンバッグは、いぜん行方不明のものもあれば、中身が入ったまま回収されたり、空の状態で回収されたりしたものがあるが、環境省によると、いずれも回収地点周辺の水質や空間線量に影響は確認されていないという。
 前出の長谷川さんは「今回だってかなり前から台風で大雨が降るとマスコミも騒いでいたのに、十分な対策が取られなかったという思いだ」と話し、「今回の流出で環境に影響がないというが、それ以前の問題だ。(フレコンバッグを)流すこと自体がおかしいでしょ」と語気を強めた。
 環境省によると、福島県内では除染により、汚染土と、落ち葉や草木などの可燃性廃棄物約千四百万立方メートルが発生。四割が中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入済みだが、残る約六割はフレコンバッグに入れられ、環境省や市町村が管理する仮置き場で搬出を待っている状態だ。

◆860万袋分の山の表土が除染手付かず

 日本大の糸長浩司特任教授(環境建築学)は「フレコンバッグは適切に管理し、早く中間貯蔵施設に入れなければならない。そのフレコンバッグの流出は問題だが、原発事故で飛散した放射性物質が残る山の表土の方がはるかに大きな問題だ」と指摘する。
 糸長特任教授によれば、除染され、フレコンバッグに入れて保管されているものは全体のごく一部で、山の表土の除染は手付かずだ。試算すると、飯舘村の山の表土を深さ五センチで削り取ると約八百六十万袋にもなるという。
 「今回の台風で山の表土が川に流れ出し、あふれたり、洪水になったりして流域に放射性物質が広まった可能性がある。放射性物質を含んだ水や泥が乾けば飛散する。まず環境省は流域への影響を調査すべきだ。今後も続く大雨への対策も考えなければならない」

(2019年10月22日朝刊「特報面」に掲載)
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