[2019_09_28_13]関電3億2千万円“裏金” 疑惑の”影の町長・Mさん”が生前、記者に語った言葉〈週刊朝日〉(アエラ2019年9月28日)
 
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関電3億2千万円“裏金” 疑惑の”影の町長・Mさん”が生前、記者に語った言葉〈週刊朝日〉

 関西電力の八木誠会長(69)や岩根茂樹社長(66)を含む役員ら20人が関電高浜原発が立地する福井県高浜町の森山栄治元助役=3月に90歳で死亡=から、約3億2千万円を受け取っていた問題で、岩根社長が9月27日に会見し、陳謝した。すでに幹部たちは修正申告しているという。
 高浜町は若狭湾に面した関西電力の高浜原発の立地町で、大飯町、美浜町と並ぶ「原発銀座」だ。
 原発マネーの還流かと疑われる3億2千万円の不透明な裏金は、金沢国税局の税務調査で判明した。
 高浜原発や大飯原発の関連工事を請け負う高浜町の建設会社への税務調査をしたところ、工事受注などの手数料として、森山元助役が約3億円を受け取っていたことが判明。その後、森山氏はその一部とみられる金を関電役員ら6人の個人口座に送金するなどしていたことが発覚した。
 2011年からの7年間で、3億円以上もの”裏金”を関電幹部らに送っていた森山元助役。その名前を初めて記者が聞いたのは、2012年3月。
 前年3月に起こった東日本大震災、福島第一原発事故から1年ほど経過した肌寒い日のことだ。原発事故の取材に奔走していた当時、福島で原発の出入り業者がこう教えてくれた。
「あんた、大阪から来たんだったら、関西電力のこともやらんとあかん。関電と原発のことを裏でやっていた人で、モリヤマっていう80歳ぐらいのおじいさんがいる。福井の原発は、この人がいたからあんなたくさんできたんだよ。地元ではあまりのすごさに名前ではなく、Mさんと呼ばれているわ」
 この時、はじめて森山氏の名前を知った。その後、調べていくと、この人物は高浜町元助役であったこと、退職後も市や地域の要職についていること、高浜原発では関電との窓口になっていたことなどがわかった。地元の建設業者の証言。
「森山おじいさんのすごいところは、高浜町から関電に請求書のようなものを送りつけて『○○億円、ください』って平気でやること。もちろんその前に、関西電力のトップとは話をつけているのでしょうが、現場はびっくりですよ。高浜町への寄付なんて、億単位でバンバンとってくる」
 この業者によると、地元の原発工事でも森山氏は存在感を発揮した。
「森山さんの紹介がなきゃ、地元で工事も入れてもらえんよ。町長や町議の選挙だって、森山さんのところに挨拶にいかなきゃ当選できない。イベントでは一番の貴賓席に森山さんが座っていて、町長がわざわざ、挨拶していたさ。影の町長と呼ぶ人もいる」(前出の業者)
 今回、発覚した裏金問題については、前出の業者はこう語った。
「3億2000万円を関電さんにもらうのじゃなくて、渡すって、やはり森山さんのすごさだなと思った。カネの一部は幹部に振り込まれていたってことは、銀行口座を聞き出したということでしょう。森山さんでなきゃできないよ。関電さんが機嫌を損ねたくないから返せなかったということ。それくらいのフィクサーだったね。今回の事件はその裏付けじゃないかなと思った」
 数年前、台風被害で高浜町の漁港が壊滅的な被害を受け、関電から再建のために資金提供があったという情報もキャッチした。その工事について調べると、森山氏らに”裏金”が渡っていたのではないか、と高浜町議会で問題になったことも確認できた。
 そこで森山氏を直撃すべく、高浜町の自宅に向かった。約7年前のことだ。
「長い壁があって、玄関に大きな立派な松の木がみえる大きなお宅」と教えてもらった森山氏の邸宅に辿り着き、インターホンを押したが、誰も出てこない。
 近くで時間をつぶして再度、訪ねてみると、玄関先におじいさんが立っていた。
「森山さんでしょうか」と尋ねると、
「そうですが」と答えたおじいさんこそが森山氏本人だった。
 取材で来たことを告げ、名刺をさし出すとこう答えた。
「福島で事故があってから、1人か2人、話を聞きたいと記者がきたよ。あんたもか? 原発で喋るような話はないから…」
 名刺も「いいから」と受け取ろうとしなかった。関西電力との関係について質問をぶつけてみた。
「高浜町は関電さんと仲良くさせてもらって、いい町になった。それだけだよ」
「やっかみ、嫉妬もあってか、周囲でいろんなことを言う人がいるが、記者さんが探るような変な話はないから…」
 これまでの取材で聞いていた固有名詞、工事での裏金問題などをぶつけても、巧みにはぐらかす。
 まさにフィクサーのような受け答えだった。絶対に自分は表に出ない、不要なことは話さない、というオーラが全身からにじみ出ていた。いくら質問しても森山氏は「話すことないから」というばかり。
「寒いから、これで。私は影の町長じゃないよ。遠くからご苦労さん」
 こう言うと玄関に向けて歩き出した森山氏。
 だが、急に足を止め、記者に逆質問した。
「原発取材は福島の事故から(取材を)はじめたの?」
 うなずくと意味ありげにこう続けた。
「原発はね、深いんだ。わからないよ、なかなか。いろいろあるから。ほんと、いろいろとね…」
「そのいろいろを知りたくて来たのですが…」
 こう問いかけたが、ニタリと笑うだけで、何も答えず、家の中に消えた。
 森山氏が繰り返した「いろいろ」。その中に関電幹部への資金提供が含まれていたのだろうか。(今西憲之)
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