[2019_09_12_01]<それぞれの8年半>東電旧経営陣判決を前に[1]事故の責任告訴で問う(河北新報2019年9月12日)
 
参照元
<それぞれの8年半>東電旧経営陣判決を前に[1]事故の責任告訴で問う

◎福島県三春町 武藤類子さん(66)
 東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第1原発の安全対策を怠ったとして、業務上過失致死傷罪に問われた旧経営陣3人への判決が19日、東京地裁で言い渡される。事故は多くの命や古里を奪い、8年半たつ今も人々に深い苦しみをもたらし続ける。判決を前に被害者の思いに耳を傾けた。
 「私は原子力に関心を持たずに生きてきました。でも今は…」
 福島原発告訴団長の武藤類子さん(66)=福島県三春町=が7月、宇都宮大で学生ら70人に自身の半生を語った。震災の関連授業に特別講師として招かれた。
 第1原発事故後、各地で講演を重ねる。「一人一人が問題を考え、広がっていく。草の根の活動こそが社会の変化につながる」と信じるからだ。
 特別支援学校の教員を務める傍ら脱原発運動に参加してきた。「原発は一度事故を起こせば人が住めなくなる」。1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故が転機となり、30年以上活動を続けている。

■まさか福島で

 2011年3月も、運転開始40年が近づく第1原発の廃炉運動に向けて準備を進めていた。巨大地震の発生から落ち着く間もない12日午後、原子炉建屋爆発の一報が入った。
 「チェルノブイリと同じだ」。でもまさか、福島で−。すぐに避難を始めた。「炉心溶融」の言葉が頭をよぎる。後に、現実の出来事だと知った。
 人類史に残る大事故。すぐに原因究明に向けた捜査が始まると思ったが、音沙汰はない。それどころか賠償は加害者の東電が主導し、避難者は見知らぬ土地で虐げられ、被害者同士の対立すら生じている。現実は違和感の連続だった。
 「なぜ事故が起きたのか。責任の所在と真実が、刑事裁判なら明らかになるのではないか」。東電旧経営陣らの責任を問い、人生初の告訴に踏み切った。
 賛同の輪は広がり、全国の1万4716人が告訴・告発に名を連ねた。「有罪の根拠が薄い」と不起訴処分にした東京地検に対し、市民で構成する検察審査会は2度にわたり「起訴すべきだ」と判断。元会長ら3人の強制起訴が決まった。まさに民意が手繰り寄せた裁判だった。

■貴重な証言も

 37回の公判の度に東京へ通い、傍聴席で書きためたノートは14冊。東電が津波対策を先送りした背景に「収支悪化」があったと明かす元幹部の証言も初めて聞いた。「起訴されなければ廃棄されていた証拠が数多くあった」と振り返る。
 元会長は法廷で「安全の責任は一義的に担当部署にある」とし、自身の責任を否定した。「これが原発事業トップの言葉。無責任社会を表している」。むなしさが押し寄せた。
 裁判では、死傷した57人だけが被害者とされたが「実際は計り知れない数の被害者がいて、後世にまで影響する大事な裁判」と武藤さんは言う。未来を見据え、司法に望みを託す。
 「原発事業者の責任をしっかり示してほしい。二度とこんな事故が起きないように」
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