[2019_09_07_06]福島原発事故19日判決 東電旧経営陣 刑事責任は 津波の予見可能性焦点 「大津波来るとは考えず」無罪主張 部下の証言 真っ向否定 試算報告巡るやりとり 勝俣元会長ら3被告(東奥日報2019年9月7日)
 福島第1原発事故を巡り、業路上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長(79)ら東京電力旧経営陣3被告の判決が10日、東京地裁で言い渡される。大津波を予見し、事故を回避できたのかが争点。未曽有の大災害をもたらした事故で企業トップらの刑事責任は認められるのか。裁判所の判断が注目される。

 他に強制起訴されたのは、武黒一郎元副社長(73)と武藤栄元副社長(69)。3人とも大津波は予測できず事故を防ぐことはできなかったと無罪を主張し、検察官役の指定弁護士と真っ向から対立している。
 指定弁護士が立証の柱にしたのは、最大15・7メートルの津波が第1原発の敷地を襲う可能性があるとした東電子会社による試算結果。福島県を含む太平洋岸に大津波の危険があるとした国の地震予測「長期評価」を根拠にしており、2008年3月、東電に報告された。
 長期評価の信頼性と、試算を把達した後の対応が裁判の大きな焦点になった。指定弁護士の諭告などによると、担当者は08年6月、原子力・立地本部副部長だった武藤元副社長に試算結果を報告し、長期評価の見解を取り入れる必要があると進言。しかし翌月の面談で、津波の試算方法を土木学会に検討してもらうよう指示された。
 指定弁護士は「対策を回避するため問題を先送りした」と指摘。武藤元副社長は法廷で「長期評価には信頼性がなく、それを基に対策を決められる状況ではなかった。先送りと言われるのは心外」と話した。
 一方、3人ら経営陣が出席した09年2月の「御前会議」で、当時の吉田昌郎・原子力設備管理部長(故人)は長期評価を基に「14メートル程度の津波が来る可能性があるという人もいて…」と発言。指定弁護士は、この重大な発言を受けても経営陣は対策を取らたかったと批判する。
 武黒元副社長側は「長期評価は専門家の評価が分かれており、大津波が来るとは考えなかった」、勝俣元会長側は「吉田部長の発言のみで津波の予見可能性が生じたとは言えない」としている。
 さらに弁護側は、15・7メートルは原発の敷地南側の水位で実際に津波が来たのは東側だったため、対策工事をしても事故は防げなかったとも主張している。
 指定弁護士は、大津波が来るとの基本的な情報に接した以上、3人には詳細かつ最新の「情報収集義務」が課されていたと指摘。法曹関係者によると、これを認めた司法判断は少ないとみられる。

 試算報告巡るやりとり 勝俣元会長ら3被告 部下の証言 真っ向否定

 福島第1原発事故の公判が開かれた東京地裁の104号法廷。被告3人の座り方は現役時代の序列そのままに、勝俣恒久元会長の右手に武黒一郎元副社長、左手に武藤栄元副社長。かつての部下たちの証言にも表情を変えることはなかった。
 「予想していなかった結論だったので、分かりやすい言葉で言えば力が抜けた状況。(その後の)数分の部分は、やりとりを覚えていません」 東京電力の津波担当の課長だった高尾誠氏は証言台で、武藤元副社長に大津波対策を説明した2008年7月31日の打ち合わせを振り返った。
 内部の試算で得られた敷地をのみ込む最大高さ15・7メートルの津波が生じる危険性。これに対応する防潮堤の建設費を「数百億円規模」とする資料や、担当者の説明にも武藤元副社長は首を縦に振らず、再計算を指示した。「研究を実施しよう」 高尾氏とともに会合に臨んだ部下の金戸俊道氏の受け止め方は少し違っていた。
 大津波対策について「100年放っておいていい話ではないと思うが、切迫感はなかった」という金戸氏。「いろいろ考えて経営判断したと受け止めた」とした。
 大津波試算の前提は、政府地震調査委員会が02年に出した予測だった。
 武藤元副社長は、過去に福島県を津波が襲った証拠がないのに危険を指摘したと予測を批判。武黒元副社長も、長期評価をそのまま対策の前提とするのは「無から有を生じることになりかねない」とし、勝俣元会長も「そんなものを根拠に企業行動を取ることはできない」と切り捨てた。
 3被告の部下だった山下和彦元フェローは病気で出廷できず、東京地検作成の調書が証拠となった。再計算の指示は「福島第一が停止して収益悪化を避けるためだった」と、対策の先送りを認めたとの内容だ。
 3被告は真っ向から否定する。「停止は不要だった」(武藤元副社長)「原子力安全の出費をためらったことは一度もない」(勝俣元会長) 山下氏調書は、15・7メートル試算前の08年2月、福島第1の津波想定がもっと高くなる恐れがあると勝俣元会長らに報告したとするが、法廷で勝俣元会長は「勘違いだと思う」と突き放した。
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