[2019_07_26_01]月の引力で左右される?!生物や地震(島村英紀2019年7月26日)
 
参照元
月の引力で左右される?!生物や地震

 東京の6月下旬から7月は雲に覆われて異例の日々だった。日照時間は東京で例年の14パーセントにすぎなかった。
 だが、この間に月は満月を迎え、太陽と地球と月がこの順に一直線にならぶ月食も、南西諸島や九州、世界でもベルリン、ベネチア、ブラジリアなどで見られた。
 月は多くの生物のリズムを決めている。牡蠣(カキ)は、月のリズムに合わせて殻を開けて捕食したり産卵したりすることが最近の研究で分かった。
 カキの殻の開き具合は、新月には明らかに大きく、満月には小さくなる。しかも、上弦の月と下弦の月で異なり、後者の方が20パーセントも大きく殻を開けていた。
 つまり、カキは単に明るさではなく、月の満ち欠けの周期に合わせて行動していることが分かった。
 カキが月の満ち欠けに合わせる理由は不明だ。だが、月齢は、潮の満ち引きや潮流に直接の影響がある。これが食物の入手のしやすさに影響を及ぼすのではないかと考えられる。月が欠けていくときや新月の方が、植物プランクトンなどの食物が増えるのではないかと考えられている。
 カキだけではない。イソメの仲間である「太平洋パロロ」は、海底やサンゴの中に1年中住んでいて有機物を食べている。パロロは南太平洋ではバナナの葉に巻いて焼いて食べるが、日本では釣り餌として利用されている。
 ところが10月の満月の2日間に、パロロは身体の一部を切り離して、月光がさす海面に向かって泳ぎだす。そして一斉に繁殖するのだ。さらにちょうど1カ月後、11月の下弦の月の前後にも、無数のパロロがこの繁殖行動を繰り返す。日本のイソメも秋の新月と満月の数日後に生殖群泳を行なっているのが知られている。明らかに月のリズムで行動を起こしているのである。
 じつは、人間にも月の影響がないわけではない。月経である。月経の周期が月の満ち欠けの周期である29.5日に近いのは、ナゾなのである。
 こんなに生物に影響を及ぼしているのなら、地震の起きかたにも何かの影響があっても不思議はない。月や太陽の引力は海洋潮汐を起こしているほか、地球の岩の部分にも1日2回、30センチもの上下を繰り返している。引力は月のほうが太陽より約2.2倍大きい。
 引力による変化が引き金になって大地震が影響を受けるという最近の研究がある。
 過去20年間のマグニチュード(M)8.2を超える巨大地震12例のうちの9例が大潮のときだったという。この9例には2011年に起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)も含まれている。
 大潮は満月と新月に起きる。月と地球と太陽が一直線になるから、地球にとっては外からの引力がいちばん強くなる。
 この研究ではM5.5以上の地震を解析したが、大地震でもMが8.1より小さい地震は関連が見られなかった。
 だが、9つという例数が少なすぎて統計学的に意味があるとは言えない。それゆえ、月や太陽の引力の影響はないと言わざるを得ないのがいまの定説になっているのだ。

KEY_WORD::HIGASHINIHON_: