[2019_07_12_01]<参院選ルポ>1.5キロ先に東海第二 高齢者施設「避難できない」(東京新聞2019年7月12日)
 
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<参院選ルポ>1.5キロ先に東海第二 高齢者施設「避難できない」

 茨城県東海村の閑静な住宅街に、オレンジ色の壁が特徴の平屋の建物がある。認知症の人のグループホーム「メジロ苑(えん)」だ。中では高齢者らがお茶を飲んだり、テレビを見たりと静かにすごしていた。
 入所者約二十人は平均年齢八十六歳で、車いす利用者や介助が必要な人もいる。ホーム長の清水浩さん(38)は「ここにいる人たちは、環境の変化に敏感。ちょっとしたことでパニックになってしまう」と話す。
 穏やかに生活してもらうことに心を配るが、約一・五キロ先にある日本原子力発電東海第二原発の存在がネックになっている。原発で深刻な事故が起きれば、即時の避難が求められる。
 六月には村で大規模訓練があり、入所者六人が初めて参加。職員に付き添われ、ワゴン車と軽自動車の二台で約八十キロ離れた公民館へ一時間半かけて移動した。
 入所者は移動中は歓談していたものの、避難先に着いてしばらくすると落ち着きを失い、そわそわする人もいた。清水さんは「環境が変わると、自分が何をしていいか分からなくなる。訓練だから大丈夫かなと思っていましたが…」と振り返る。避難の難しさをあらためて痛感した。
 さらに問題なのは、仮に入所者全員の避難が必要になった場合、施設が所有する車二台では足りない。職員の車を使う手もあるが、職員が休みで施設にいない可能性もある。清水さんは「認知症の人は、付き添う職員が必要。一度に避難するためには、バスがあと一台必要」と説明する。
 事故に備え、避難計画が義務付けられる原発三十キロ圏十四自治体には、全国の原発で最多の九十四万人が生活する。避難にバスがどれほど必要で、実際に手配できるかもはっきりしない。十四自治体すべてで実効性ある避難計画ができるのかさえ分からない。
 清水さんは「避難ができない。福島の原発事故で分かったように、原発は人の力でどうこうなるものではないので、動かしてほしくないです」と訴える。
 こうした声を受けるように、参院選茨城選挙区では、候補者五人のうち野党の四人は再稼働反対の考えを示し、街頭で積極的に訴える候補者もいる。自民党は再稼働を容認する立場だが、その候補者でさえ、賛否を明確にしていない。
 一方で、村の商工業関係者の間では再稼働を求める声は根強い。原発近くで旅館を経営する相澤広さん(64)は「再稼働すれば、定期的に検査の作業員らの宿泊が見込める」と話す。
 ただ、村も原発に頼ることに限界を感じているのか、脱原発の経済を考え始めている。村主催の勉強会で、脱原発へのソフトランディングをテーマに講演した関東学院大の湯浅陽一教授(環境社会学)は「村は人口が多い上、村内にある火力発電所や原子力研究機関からの税収があるため、原発がなくなっても大きな影響が出ない」とみる。
 「国会議員に求められるのは、原発を減らすことを前提とした仕組みづくりだ」 (山下葉月)

<東海第二原発> 日本原子力発電が1978年11月に営業運転を開始した。都心に最も近い原発で、都庁までの距離は東京電力福島第一原発からの半分程度の約120キロ。重大事故が起きた場合、首都圏全域に甚大な被害を及ぼす可能性がある。東日本大震災で被災し、非常用発電機も一部使えない事態になったが、かろうじて冷温停止できた。昨年11月、原子力規制委員会の主要審査が終わったことを受け、原電は今年2月、再稼働方針を表明。原電が事故対策工事を完了する予定の2021年3月以降、再稼働が現実味を帯びる。

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