[2019_06_21_01]元東電社員の蓮池透氏も驚愕! あまりにも無防備な「伊方発電所」(ハーバービジネスオンライン2019年6月21日)
 
参照元
元東電社員の蓮池透氏も驚愕! あまりにも無防備な「伊方発電所」

伊方発電所正門前へ

 前回「蓮池透氏と見る四国・伊方発電所。蓮池氏も驚愕したその立地とは?」に引き続き、去る6月11日に八幡浜市で開催された蓮池透氏講演会についてお届けします。連載途中である韓国講演シリーズは後日再開します。
 前回、伊方発電所の裏側から伊方発電所3号炉に近づき、四国電力による谷の埋め立てという荒技をご紹介しました。私にとっては、自然の中で原子炉をのんびり観賞できる絶好のビューポイントだったので、とても悲しんでいます。
 さて私たち一行は、「へこみデミオ」に乗り、埋め立て中の柿が谷橋を渡り、閉鎖中の第二ゲートを通過し、伊方発電所正門前に向かいました。
 蓮池さんは、東電時代に伊方発電所に来たことがあるとのことで、「私は中には入ったことがあるけれども外から見るのは初めてです」とのことでした。県道255号線は、伊方発電所の敷地に沿っているのですが、当然、発電所全体はフェンスと有刺鉄線に囲まれています。
 蓮池さんによると、ずいぶん低いフェンスだし有刺鉄線もたいしたことないですねとのことでした。とくに、原子炉および周辺施設が常時車窓から見えるのにはもと原子力屋にとって新鮮な驚きとのことでした。
 そうこうしているうちに伊方発電所正門前に着きました。早速正門ゲート前に向かうと、「あ、やっぱり伊方発電所」と書いてありますねとのことでした。BWR(沸騰水型原子炉)系発電所とPWR(加圧水型原子炉)系発電所では、それぞれに方言があり、用語がいろいろと異なるのですが、BWR系では「◎◎原子力発電所」PWR系では「△△発電所」と表記する違いがあります。厳密には例外があり、PWR系の九州電力では「玄海原子力発電所」「川内原子力発電所」と表記し、日本原電では逆にBWRでも「東海第二発電所」と表記しています。
 蓮池さんが以前伊方発電所に来たときは、車で中に入っていったので、外からの風景は全く記憶にないそうです。
 正門脇の道路から発電所が一望できる場所に移りますと、蓮池さんはとても驚かれました。

原子力発電所最大の弱点が丸見え

「え〜〜〜〜〜!全部丸見えじゃないですか」
「こんなに開かれた、何もかも見通せる原子力発電所なんて他にないですよ」
「柏崎刈羽(原子力発電所)なんて、まるで要塞ですよ。外からは何も見えないし、2m以上あるフェンスに囲まれて、鉄条網も凄いのが何重にもまいてある。中に入っても距離があるんですよ。それどころか、ゲストと社員向けに9ホールのゴルフコースまで昔はあったんですよ。伊方はとても狭いし何もかも丸見えですね」
 蓮池さんは、原子炉本体だけでなく、開閉所が見えることにとても驚かれていました。開閉所は、発電所の最重要施設で、送電網に何かが起きたとき、逆に発電所に何か起きたときに発電所を送電網から切り離すとても大切な施設です。そして、構造上、非常に脆弱です。伊方発電所の場合は、敷地が狭隘(きょうあい)なために開閉所本体は地下にありますが、引き込みは山の頂上に偉容を見せています。この開閉所は、世界共通で原子力発電所最大の弱点と言えて、事故やテロ対策の重要対象です。それが地上部だけとはいえ、山の頂上で全方位から丸見えというのには、私も当初とても驚きました。
 国内にある他の原子力発電所は、海以外からは原子炉他施設全体が外部から見えません。東京電力柏崎刈羽原子力発電所などに至っては、ゲストハウス(広報館)の展望台からですら見えるのは排気筒の頂部だけだそうです。

緊急時の動線確保に四国電力がとった思い切ったこととは?

 ここで、更に少しだけ西進して、岬の端から発電所を見ます。ここにはとっておきの景色があるのです。
 まず、常に擁壁工事中の斜面付近を見ます。ここは山林火災により原子炉および周辺施設が延焼しないように植生を皆伐し、擁壁工事をしています。擁壁は、福島核災害前はただのモルタル吹きでしたが、核災害後は原子力規制委員会(NRA)の要求で、非常に強固な擁壁に変わりつつあります。ここには以前、人間が入れる程度のトンネルがあったのですが、おそらく観測用トンネルで、アンカーを打ち込み地下水を抜いたあとは最下段から埋め込まれているようです。
 実は上左の写真、重機が並んでいる直下の道路が3号炉への唯二本の動線(もう一本は、岸壁沿いのトラック離合不能通路)の為、この崖が崩れると三号炉は事実上孤立しました。更に動線が十分に太くないために緊急時の動線確保に重大な課題を抱えていたのです。
 NRAがこの重大な課題を見逃すはずはありません。そこで四国電力は思い切ったことをしました。
 下の写真では、何やら崖から大型バスがゾロゾロ出てきています。そうです、四国電力は所内に大型のトンネルを作ったのです。写真では鉄塔の後ろにあるために見にくいのですが、大型バスが余裕で離合でき、クレーンなどの背の高い重機がはいることのできる立派なトンネルがあります。
 このトンネル、まっすぐならば前回ご紹介した柿が谷橋の更に山側に出てきますが、そこは埋められています。
 図面と報道写真を調べたところ、このトンネルは、山の中で「逆L字型」に屈曲し、3号炉の真後ろに出てくることが分かりました。Googleの航空写真ではこのトンネルはまだありませんが、3号炉背後の崖が「逆L字型」になっている場所にこのトンネルは出てきています。

「経営資源の投入先を間違っている……」

 このトンネルを見るのは皆さん初めてで、絶句されていました。たったの900MWeで寿命が15年ないし35年の原子炉一基を守るために四国電力がすさまじい努力と投資をしている象徴とも言えます。私と蓮池さんは、「これは天然ガス火力と風発を整備した方がずっとましだよね。経営資源の投入先を間違っているよなぁ」と言う点で同感でした。
 ちょうど終業時間となったため、トンネルからはバスがゾロゾロと現れ、ラウンドアバウト(環状交差点)を色とりどりの車がくるくる回りますので、見ていてとても楽しいです。双眼鏡を持ってこなかったのが悔やまれます。
 実は伊方発電所内には見えるだけで二カ所のラウンドアバウトがあるのですが、これらは愛媛県内1号2号ラウンドアバウトで県内にはしばらく3号以降はなかったとのことでした。昨年でしょうか、エミフルMASAKIというショッピングセンターにラウンドアバウトができましたので、ようやく伊方発電所関係者以外でもラウンドアバウトを楽しめるようになりました。
 当然ですが、就業時間に関しては、電力会社はホワイト企業で、終業時間になるとバスや自家用車、トラックが一斉に家路へと急ぐ風景が見られます。朝夕は見ていてとても楽しいです。
 楽しい伊方発電所見学も一通り終えました。蓮池さんは「中からは全く分からないことばかりですよ。凄い。」と大喜びです。ここからは、三崎港まで避難経路を見学しました。
 次回は伊方発電所より西側の集落を三崎港まで巡り、緊急避難経路の実態を見ましたのでそれについてお届けします。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編:蓮池透氏四国リレー講演会2


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