[2018_12_04_05]<原発のない国へ>原子カムラの抗い (上)生き残りへ作戦会議 (中)国際連携で小型炉開発 (下)高温ガス炉と再生エネ(東京新聞2018年12月4日)
 
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<原発のない国へ>原子カムラの抗い (上)生き残りへ作戦会議 (中)国際連携で小型炉開発 (下)高温ガス炉と再生エネ

<原発のない国へ>原子カムラの抗い(上) 生き残りへ作戦会議

 さながら、原発の生き残りを懸けた「作戦会議」のようだった。大規模な国際会議なのに、非公開。開催の記者発表もない。
 英文の会議名を訳せば「原子力がエネルギー転換期において直面する課題と機会」。二十二カ国から百三十人のエネルギー官庁の高官や研究者、原発メーカー幹部らが十一月十三、十四日、東京・霞が関の経済産業省に集まった。
 「作戦」は、複数の参加者への取材で漏れ聞こえてきた。原発で、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの不安定な出力を補完し、温室効果ガスの排出削減に取り組む「パリ協定」を満たそうというのだ。
 「再生エネだけでは、パリ協定の目標達成は不可能だ」。世界原子力協会のキリル・コマロフ会長のプレゼンテーションに、大きな拍手が湧いた。
 経産省資源エネルギー庁の武田伸二郎・原子力国際協力推進室長は温暖化対策として、小型原発の開発方針を表明した。「二〇四〇年ごろに新しい原発が稼働するには、将来の建設のためのデザインを今、始めないといけない」と述べた。
 「原発の価値をどうすればPRできるか」をテーマにした討論では、英国のNPO代表が「再生エネとの組み合わせへの賛成は七割を超える」と報告した。
 会議を開いたのは、米政府などが主導する「クリーンエネルギーの未来のための原子力革新(略称NICE Future)」という連合体。その狙いを会議前の十月、来日した米エネルギー省のダバー科学担当次官が語った。

 「原子力がクリーンエネルギーに含まれるようにすることだ」

 原発は発電で温室効果ガスを出さないが、「核のごみ」を出し、事故を起こせば深刻な被害を及ぼす。とてもクリーンとは言えず、一〇年から続くクリーンエネルギー大臣会合で前面に出ることはなかった。
 米トランプ政権になるとエネルギー省のペリー長官が、昨年六月の中国での大臣会合でNICEを提案し、今年五月にデンマーク会合で正式に発足させた。

 「米国の本音は、原発業界の維持だ」

 長崎大核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎センター長は言う。米国では安価な再生エネの台頭で原発業界が競争力を失い、政府に助けを求めた。この夏、米政権が強制的に、原発の電気を送電会社に買わせるという救済策が報じられた。
 NICEは、原発再稼働の姿勢を続ける安倍政権にとっても「渡りに船」。日本は、米国、カナダとともに事務局となった。
 関連の動きは、日本国内ではほとんど未公表だ。経産省のホームページでは、大串正樹経産政務官(当時)が、NICE発足につながった大臣会合に出席したと伝えながら、NICEには触れていない。
 本紙はNICEに関連した文書の開示を経産省に求めた。出てきたのは、内閣府首脳とペリー長官の会談内容のメモだけで、それ以外は不開示。しかも、メモは「外交上の秘密」を理由に、真っ黒に塗られた「のり弁」だった。 (伊藤弘喜)

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 再生エネに押されている原発産業と推進官庁が、地球温暖化対策の名の下、巻き返しに出ている。国民の目から隠れるように蠢(うごめ)きだした、国際的な「原子力ムラ」のもくろみに迫る。

<原発のない国へ>原子カムラの抗い(中) 国際連携で小型炉開発

 「小型モジュール炉(SMR)は、原子力業界の常識を変える」

 アルゼンチン・エネルギー省のガダノ原子力担当次官が、本紙の取材に熱弁を振るった。SMRは小型原発の一種で、出力は従来の軽水炉の三分の一ほど。電力需要の小さな地域に向いている。主要部分を工場で造って現場で組み立てるので、建設費を抑えられる。
 アルゼンチンは、新興国などに原発の新たな需要を起こそうと、世界初の実用化を目指す。建設中の原型炉を二〇二一〜二二年に稼働させるのが目標で、米国、ロシア、中国、韓国などとしのぎを削る。
 ガダノ次官は十一月中旬、日米とカナダが主導する「クリーンエネルギーの未来のための原子力革新(略称NICE Future)」の会議で来日した。NICEは「地球温暖化阻止に原発が役立つ」という機運を盛り上げるだけでなく、技術連携もテーマ。ガダノ次官は「規格や規制ルールを世界で統一すれば、さらにコストが安くなる」とNICEに期待を寄せた。
 日本の経済産業省は、出力調整もしやすいSMRの特徴に着目。出力が不安定な再生可能エネルギーの補完を期待し、開発を進めると表明した。北海道や四国での再生エネの増加を念頭に、地方への導入を探る。
 二月、世耕弘成経産相が主催のエネルギー戦略を議論する有識者会合で、原発ベンチャー米ニュースケール社のレイエス最高技術責任者が、原発メーカーや経済界代表らに売り込んだ。

 「SMRは日本の製造業にぴったりはまる。ぜひ皆さんと協力したい」

 業界には温度差がある。経済協力開発機構(OECD)原子力機関のパイラール技術開発副部長は「一種の流行。ベンチャー企業はやる気満々だが、大手メーカーや電力会社は、そうでもない」と冷ややかだ。
 SMR研究を手掛ける日本の原発メーカー担当者は「小型なら出力も小さくなり、一キロワット時当たりの電力単価はむしろ高くなる。建設費を抑えることで、どこまで電気を安くできるか」と慎重だ。別のメーカーは「大量受注しないと、採算が合わない」と指摘した。
 投資の流れは、再生エネに傾いている。国際エネルギー機関によると、一七年の再生エネへの世界の投資額は三十三兆円。原子力は二兆円にとどまった。
 経産省資源エネルギー庁の武田伸二郎・原子力国際協力推進室長は、NICEの国際会議で強調した。

 「技術の『死の谷』をいかに乗り越えるか。経産省として支援する」

 新技術の研究成果が商業化に結び付かず、埋もれることを意味する「死の谷」。その谷を越えるため、有望な計画を予算投入で支えるというのだ。経産省はSMRを含む原子炉技術の高度化への補助金として、一九年度予算の概算要求に十億円を盛り込み、さらに拡大させる構えだ。
 NPO法人・原子力資料情報室の松久保肇事務局長が言う。「廃炉や核のごみの処理策もみえない中、日本が注力すべきは原発の後始末の研究だ。新型炉を支援する意味は、ない」
 (伊藤弘喜、吉田通夫)

<原発のない国へ>原子カムラの抗い(下) 高温ガス炉と再生エネ

 日本は小型原発の開発に乗り出す−。経済産業省幹部が都内での国際会議で表明した前日、兆しがあった。
 十一月十三日、国費で運営する日本原子力研究開発機構が東京・有楽町で開いた、一般向けの研究報告会。テーマの一つは、小型原発のうち、半世紀にわたって研究が続く高温ガス炉だった。高速炉・新型炉研究開発部門の国富一彦副部門長が、壇上で言い切った。

 「わが国が有する高度な高温ガス炉技術を利用して、(小型原発は)早期に実現が可能です」

 高温ガス炉研究は、原発時代の幕開けと同時に始まった。都心から百キロ、茨城県大洗町にある機構の広大な敷地の一角で、高温工学試験研究炉(HTTR)を拠点に進んだ。
 従来の軽水炉は原子炉を水で冷やすのに対し、高温ガス炉はヘリウムガスで冷やす。このガスは、燃料電池に使う水素の製造に利用できる。HTTRでは、他国の炉よりも高い九五〇度のガスを取り出すことに成功。高温だと、水素製造の効率が上がる。
 従来の原発と決定的に異なる特長もある。出力調整のしやすさだ。ガスの圧力を下げれば、十五分で発電量を75%下げられる。天候次第で不安定な太陽光など再生可能エネルギーの発電量に合わせて調整ができる。発電量を下げてもガスの温度は保たれ、水素の製造に影響しないという。
 「再生エネとのハイブリッド」。機構は高温ガス炉をこうPRするようになった。水素製造と調整能力で「相性」の良い再生エネと抱き合わせ、需要を高めようというわけだ。
 機構は二〇四〇年代の実用化を目指すものの、HTTRは福島事故後、未稼働で研究は停滞。来年の再開を目指すが、原子力規制委員会の審査が終わらない。さらに実用化には、新たに「実証炉」の建設と民間の協力が不可欠でもある。
 一九九〇年代のHTTR建設時は日立、東芝、三菱重工といった原発大手など多くの企業が参加。峯尾英章・高温ガス炉研究開発センター長は「オールジャパン態勢だった」と言う。
 だが、環境は変わった。業界関係者は「今後、国内で原発の新増設は極めて難しい。新たな投資は考えにくい」と口をそろえる。
 使用済み核燃料の問題も残る。百万キロワット級で軽水炉と比べると、運転四年後に出る使用済み核燃料の量は四分の一で済むが、処分先は宙に浮いたままだ。
 機構は他国との連携に望みをつなぐ。温室効果ガス削減のため、石炭火力から高温ガス炉への切り替えを検討するポーランドが有力候補。ただ、中国が来年にも実証炉稼働を計画しており、日本とポーランドとの関係に影響が出かねない。
 高温ガス炉で水素製造の実証試験が始まるのは、早くても二七年。しかし、再生エネの普及は、水素製造の手段も変えつつある。二〇年には福島県浪江町で、太陽光による電気で水素製造が始まる。その工場は、原発の建設予定地だった場所に立つ。 (小川慎一)

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