[2018_11_01_01]社説:東電原発公判 旧経営陣の責任感疑う(京都新聞2018年11月1日)
 
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社説:東電原発公判 旧経営陣の責任感疑う

 いったい、だれが安全責任を担っていたのか。東京電力の旧経営陣の供述に釈然としない。
 福島第1原発事故をめぐり業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長と武藤栄、武黒一郎元副社長に対する、初めての被告人質問が東京地裁であった。
 巨大津波の予想や事故回避は可能だったか。それを見極めるためには、事故に至る過程で、どのような意思決定がなされたのか、明らかにしなければならない。
 注目の被告人質問で、責任ある経営陣から直接、真実を聞き出すことが期待された。しかし、3被告とも肝心なところで「記憶にない」などと明言を避けた。事故に向き合うよりも、保身にしか見えない。事故を起こした当事者という自覚はあるのだろうか。
 特に焦点となったのは、最大15・7メートルの高さの津波が福島原発を襲うという試算への対応だ。国の地震調査研究推進本部が2002年に公表した地震予測「長期評価」に基づく試算で、東電の担当者が08年6月に武藤氏に報告したと証言している。
 武藤氏は翌月、試算手法の研究を専門家に依頼するよう指示し、武黒氏に報告。さらに勝俣氏も出席した社内会議では「14メートル程度の津波が来る可能性があるという人もいる」との発言があった。
 しかし津波対策に乗り出さなかった。武藤氏は公判で「長期評価に根拠はない」などと理由を述べたが、対策見送りの過程があいまいだ。
 新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が損傷して運転停止、東電の経営を圧迫していた。多額のコストを要する津波対策を避けたい経済論理が、経営陣になかったか。こうした指摘もある。
 それ以上に見過ごせないのは、3被告の責任感の乏しさだ。元副社長の2人は「権限がなかった」といい、長年社内トップを務めた勝俣氏も「全てを直接把握するのは不可能に近い」と責任逃れととれる発言を法廷でした。
 過酷事故を起こし放射性物質を拡散させたことで、多くの避難者を出し、今も故郷に帰れない人たちがいる。法廷で勝俣氏は「社長、会長を務めた者として深くおわび申し上げます」と頭を下げた。しかし、3被告の供述を聞いた傍聴席の被災者は「誠意がない」とため息をつくしかなかった。
 二度と過ちが起きないよう、真実を語って教訓とし、今後の対策につなげる。事故を起こした経営陣の責任というものではないか。
(京都新聞 2018年11月01日掲載)

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