[2018_10_26_01]地震で露呈するアスベスト問題(島村英紀2018年10月26日)
 
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地震で露呈するアスベスト問題

 大阪・寝屋川(ねやがわ)市総合センターの入り口には中央図書館の長期休館を知らせる張り紙が掲示されている。大阪北部地震から3カ月たったが、まだ再開の見通しはない。
 地震で天井などが破損して、アスベスト(石綿)が飛散する可能性があるのが分かった。公民館や学校の教室も使えなくなっている。
 アスベストは繊維の太さが髪の毛の5000分の1程度と極めて細いため、吸い込むと中皮腫や肺がんなどを発症するリスクがある。このため1975年に建築時の吹き付けアスベストの使用が禁止され、現在は一切の製造が禁止されている。
 アスベストは天然に産する繊維状ケイ酸塩で繊維状の鉱物だ。耐熱性や耐久性だけではなく、耐薬品性、電気絶縁性などにも優れ、安価なので「奇跡の鉱物」として重宝されてきた。吹きつけによる建築時の建材のほか、電気製品、自動車、家庭用品など、多くの用途に広く使われてきた。理科の実験で、ガラスのビーカーを火にかけるときにアスベストの付いた金網を敷いたのを憶えている人も多かろう。
 アスベストはすでに多量に使われている。飛び散ることや吸い込むことが問題となるため、使われている状態では法的規定は適用されない。増改築時に除去が義務づけられているだけだ。
 だが、地震などの災害に遭うとアスベストが大量に出る。寝屋川の例もそうだし、9月の北海道胆振東部地震でも問題になった。かつては阪神淡路大震災(1995年)でも大きな問題になった。
 アスベストの歴史は古い。『竹取物語』に出てくる火にくべても燃えない「火鼠の皮衣」も石綿だったと言われている。平賀源内が秩父山中で石綿を発見し、18世紀に布にしたものを中国にならって「火浣布(かかんぷ)」と名付けて幕府に献上した。
 人類が便利だと思って導入したものの、あとで困る例はアスベストだけではない。
 フロンがそうだ。エアコンや冷蔵庫の冷媒として安くて高性能で便利に使われていた。だが、廃棄されたあとで大気中を上がっていってオゾン層を破壊することがわかったのは後年だった。オゾン層が破壊されることで有害な紫外線が地球に降り注ぎ、人類をはじめ地球上の生物に害を及ぼすことが心配されている。
 またPCB(ポリ塩化ビフェニール)もそうだ。
 無色透明で化学的に安定で、耐熱性、絶縁性や非水溶性などに優れていた。このため変圧器やコンデンサなどの電気絶縁油、ノンカーボン感圧紙、塗料、印刷インキの溶剤などに幅広く使われた。
 だが、PCBには発癌性があり、皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすなど強い毒性が発見された。1968年にPCBで汚染された食用米ぬか油で起きた「カネミ油症事件」をきっかけに、1975年に製造が禁止された。この事件は、いまだに後遺症が残り、政府や会社が及び腰なこともあって最終的には解決されていない。
 アスベストは地球にあった鉱物だが、フロンもPCBも、もともと地球にはなかったが人類が発明したものだ。「便利な生活」は意外なところでツケをまわされるものなのである。

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