[2018_09_19_02]北海道地震による大停電が北海道電力の経営危機を引き起こす理由(ダイヤモンド・オンライン2018年9月19日)
 
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北海道地震による大停電が北海道電力の経営危機を引き起こす理由

 「これで北電の経営危機が一気に加速するかもしれませんね」。ある電力業界関係者はそう呟いた。というのも、北海道電力の財務基盤は、大手電力会社の中でもとりわけ脆弱だからだ。
 北電は東日本大震災の後、原子力発電所の新規制基準に対応するために泊原発が停止に追い込まれ、代替の火力発電所を稼働させたことにより、燃料費がかさんで経営を圧迫。2012年3月期から3期連続で最終赤字を計上し、14年3月期の自己資本比率は5.4%にまで落ち込んで、危険水域に達していた。
 その後、黒字に転じたものの、18年3月期の自己資本比率は10.5%と、大手電力の中では依然、最低水準。しかも、営業キャッシュフロー(CF)と投資CFを足し合わせた、どれだけ自由に使えるキャッシュを生み出したかを示すフリーキャッシュフローは、7期連続でマイナスだ。
 そうした中で発生した北海道での大地震。原発安全神話と同様に、日本では起こり得ないとまでいわれたブラックアウトを、北電は引き起こしてしまった。
 ブラックアウト最大の要因となった苫東厚真火力発電所の停止は、冒頭の言葉通り、北電の経営に大きな打撃を与えるのは間違いない。
 なぜなら、この時期の管内の電力需要を5割近く賄う苫東厚真火力は、北電が所有する火力発電所の中で唯一、海外産の石炭が燃料であるために発電コストが最も安い。
 だが、停電の解消には、被災した苫東厚真火力とは別の火力発電所に頼らざるを得ない。これらの火力発電所はいずれも老朽化しているのに加え、燃料は発電効率の悪い重油や軽油、国産の石炭を使用するため、苫東厚真火力に比べて発電コストは2〜3倍に膨らむからだ。
 そもそも主力の苫東厚真火力が再稼働できない限り、電力需給は逼迫し続ける。そのため政府と北電は苫東厚真火力が復旧するまでの間、道民に2割の節電を要請。万が一の場合には、計画停電も準備している。
 つまり、実入りは減る一方、出費は増えるばかりで、北電の経営体力を徐々にむしばんでいくことになる。しかも苫東厚真火力の全面復旧は11月までずれ込み、長期間の“大量出血”を免れそうにない。
 北電の担当者は「今回の地震でどれくらいの損失になるかは、現時点では分からない」と困惑気味だ。

● 北電離れが駄目押し
 苫東厚真火力が無事に復旧して北海道に日常が戻ったとしても、北電は“一件落着”となりそうにない。
 業界関係者の間で最も懸念されているのは、ブラックアウトを起こした北電への信頼が失墜したことで“北電離れ”が加速することだ。
 意外と知られていないのが、16年4月に始まった電力小売り完全自由化で最も餌食になっているのは、東京電力でも関西電力でもなく、北電だということだ。特に利幅が大きい工場やビル、事業所といった高圧・特別高圧の部門では、毎年1割の需要を他社に奪われている。すでに北電離れは始まっているのだ。
 大きな要因は、泊原発の停止で膨らんだ火力発電所の燃料費を吸収するために、13、14年と2年連続で電気料金を値上げしたこと。価格面で圧倒的に劣勢なまま電力自由化に突入し、これが他社に付け入る隙を与えた。別の業界関係者は「今回のブラックアウトの影響で、北電はさらに攻め込まれる」と断言する。
 目下のところ、世間の関心はいつ苫東厚真火力が全面復旧し、電気が当たり前にある日常の生活に戻れるかだ。だが、その裏で北電の経営危機がひたひたと迫りつつある。
週刊ダイヤモンド編集部


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