[2018_07_31_02]<プルトニウム削減指針>核燃サイクル、袋小路 道筋険しく(毎日新聞2018年7月31日)
 
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<プルトニウム削減指針>核燃サイクル、袋小路 道筋険しく

 内閣府原子力委員会がプルトニウムの利用指針を改定し、保有量を減らすと初めて明記した。しかし具体的な削減策を巡っては政府と電力会社間で温度差もあり、実現への道筋は険しい。プルトニウムを新たに取り出す再処理工場(青森県六ケ所村)の完成も控え保有量は逆に増えかねない状況で、米国や国際社会の懸念にどう答えるか、日本は大きな課題を抱えることになった。【岡田英、和田憲二】

 ◇見通せぬ国内消費

 「長期的には削減していくが、再処理をやっていくと一定の量は出る」。原子力委員会の岡芳明委員長は、保有量の削減には時間がかかるとの見方を示した。
 削減に向け新指針は「事業者間の連携・協力を促す」とした。電力会社の海外保管分について、再稼働が進まない東京電力や中部電力から、利用可能な原発を持つ四国電力や九州電力への融通が念頭にある。経済産業省幹部は「全国で燃やせるようになるまでの間も削減を進めたい」と話す。
 ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を燃やすプルサーマル発電を導入する電力会社は、自社由来の燃料を使うのが原則。他社由来の使用は地元の反発も予想され、電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は「これからの検討」と慎重姿勢。政府と業界との温度差は鮮明だ。
 ただ、海外保管分36.7トンのうち英国の21.2トンは日本への輸送が難しく、消費で削減するのが困難な状況に陥っている。電力会社は使用済み核燃料を英仏に委託して再処理、MOX燃料に加工してきたが、英国が福島第1原発事故後に加工工場を閉鎖、日本へ搬出のメドがたたないためだ。
 プルサーマル発電の拡大も容易ではない。同発電の原発の再稼働は4基で、消費できる量は年間約2トンだ。電事連は原発16〜18基で年約10トン燃やす計画を持つが、現状は遠く及ばない。
 MOX燃料は、海外への委託加工費や輸送費がかさみ、価格は1体10億円超で通常のウラン燃料の10倍近いとされる。電力会社が割高でも核燃料サイクル政策に従ってきたのは、地域独占経営や「総括原価方式」の電気料金制度に守られていたからだが、電力市場の全面自由化で競争にさらされる。業界では「今後もプルサーマルを推進するのは現実的ではない」(大手電力幹部)との声が漏れる。

 ◇米に対応迫られ

 日本の保有量は1993年の10.8トンから、2017年末には4倍以上の47.3トンに膨らんだ。青森県六ケ所村の再処理工場が21年に完成すれば、さらに増えかねない状況にある。プルトニウムは核兵器にも転用可能なため、国際社会の懸念は強まっている。
 「国際的に非常にまずい。米国から『ちゃんと説明しろ』と言われている」。原子力委員会の岡芳明委員長は3月、電気事業連合会の担当幹部にこう伝えた。米オバマ前政権下で核不拡散担当の国務次官補を務めたトーマス・カントリーマン氏も6月、東京都内のシンポジウムで「削減策をもっと説明してほしいと要請してきた。トランプ政権下でも続いている」と明かした。
 政府が米国の意向を気にする背景には、7月17日に自動延長された日米原子力協定がある。資源小国の日本は、核燃料サイクルを譲れない一線と考え、米国に再処理実施を容認させた。88年発効の日米原子力協定で、非核保有国として唯一、特例的に再処理を認められた経緯がある。その協定は自動延長により、日米いずれかの通告で6カ月後に一方的に終了できることになった。法的に不安定化し、日本は米国の意向を尊重せざるを得ない状況だ。
 高まる懸念に政府は16年、再処理等拠出金法で再処理事業へ国の関与を強化。再処理工場の運用計画は経済産業相の認可が必要となり、国が監督できるようになったと説明する。しかし、内閣府幹部は「法律には保有量を減らすと書かれておらず、規定もあいまいで、米国を納得させられなかった」と明かした。

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