[2018_06_27_04]汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発 東日本大震災の復興支援プロジェクトから生まれた汚染水対策(近畿大学2018年6月27日)
 
参照元
汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発 東日本大震災の復興支援プロジェクトから生まれた汚染水対策

 近畿大学工学部(広島県東広島市)教授 井原辰彦、近畿大学原子力研究所、東洋アルミニウム株式会社(大阪府大阪市)および近大発のベンチャー企業である株式会社ア・アトムテクノル近大らの研究チームは、放射性物質を含んだ汚染水から放射性物質の一つであるトリチウムを含む水「トリチウム水」を分離・回収する方法及び装置を開発しました。

【本件のポイント】
●汚染水からトリチウム水を高効率に低コストで分離・回収することに成功
●装置は再生利用可能で、継続的な除染処理が可能
●東日本大震災の復興支援を行う「"オール近大"川俣町復興支援プロジェクト」の一環

【研究の概要】
 トリチウム水は、水と化学的性質がよく似ていることから、従来の除染技術では、汚染水から水とトリチウム水を分離することは困難とされていました。井原ら研究チームは、炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」と、ストローのような細い管を液体につけた際に、液体が管の中を上がっていく現象「毛管凝縮」に着目し、この現象を除染技術に応用するため研究を進めてきました。
 完成した多孔質体は、直径5nm(ナノメートル)以下の大きさの微細な穴「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま、水だけを放出する機能があります。この多孔質体を格納した装置(フィルター)によって、汚染水からトリチウム水を高効率に分離することができます。
 また、多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができます。装置は繰り返し利用できるため、低コストでのトリチウム除染が可能です。本研究成果により、汚染水の容量を削減することが可能になり、汚染水の保管場所問題の改善が期待されます。
 なお、本研究成果は特許協力条約に基づく国際出願を行っています。

【研究の詳細】
 ベーマイト処理 ※1済みのアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した本発明装置を用いて、実証実験を行いました。40℃の温度下、0.2MBq/L濃度の擬似汚染水を毎時3.5g供給し、1時間毎にトリチウム含有水溶液を測定しながら、連続して10時間実験を行った場合の回収積算量(g)と除染率(%)の関係を調べました。グラフは、ベーマイト処理時間を0分、10分、300分とした3種類のアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを比較した結果です。いずれも処理量が増加するにつれて除染率は低下していますが、ベーマイト処理を行ったフィルターでは初期段階で、ほぼ100%除染されていることを確認しました。
※1:ベーマイト処理 アルミニウムに熱水処理を施すことで、アルミニウム系酸化皮膜(AlOOH、Al2O3・H2O)を形成する。

【本件の背景】
 東京電力福島第1原子力発電所で発生している汚染水に含まれるトリチウムの放射能の量は3400兆ベクレルと報道されています。これは5.7×10-9%程度の極めて低い濃度であることから、従来の蒸留法や電解法の装置では効率的に除去することはできません。そのため、トリチウム水を含んだ汚染水貯蔵タンクの増設は避けられず、広大な保管場所を確保する必要があります。今回開発した技術によれば、東京電力福島第1原子力発電所 事故現場でのトリチウム汚染水対策として、また、原子力発電所内で発生するトリチウム汚染水対策として期待されます。今回の研究は、近畿大学が東日本大震災の復興支援として取り組んでいる「"オール近大"川俣町復興支援プロジェクト」の一環として行われました。

【研究者プロフィール】
工学部化学生命工学科 教授 井原 辰彦(いはら たつひこ)
学  位:工学博士
専門分野:酸化チタン光触媒、セシウム汚染土壌の除染
発表論文:H2O-O2プラズマによって生成したHO2/O2-ラジカルの滅菌効果、多孔質アルミニウム電極への
     電気吸蔵による水溶液中セシウムイオンの回収 他多数
(後略)
KEY_WORD:汚染水_:HIGASHINIHON_:FUKU1_: