[2018_06_19_02]【社説】大阪で震度6弱 いつ、どこでも起きる(東京新聞2018年6月19日)
 
参照元
【社説】大阪で震度6弱 いつ、どこでも起きる

 地震国ニッポン。今度は大阪で起き、広範囲で揺れた。都市直下型地震は被害が大きくなりやすい。それに見合って防災は進化しただろうか。

(1)再び塀は倒れた
 四十年前の一九七八年六月十二日、宮城県沖地震があった。死者二十八人のうち十八人がブロック塀などの下敷きで亡くなった。電気、ガス、水道といったライフラインはズタズタになり、鉄道は止まった。私たちは都市型災害の恐ろしさを知ったはずだった。
 今回の地震で、通学途中の女児と、見守り活動に行こうとしていた男性の二人が塀の下敷きとなって死亡した。宮城県沖地震の教訓を生かせず、命を守れなかったのが残念だ。
 建築物の大きな被害は報告されていない。火災も非常に少なかった。防災力は改善されてきたと考えたいが、ガラスや看板、壁材などの落下はあった。エレベーターに閉じ込められた人もいた。
 気象庁の発表も変わった。
 一昨年の熊本地震までは余震情報だったが、今回は「過去の事例では、大地震発生後に同程度の地震が発生した割合は1〜2割あることから(中略)最大震度6弱程度の地震に注意してください」となった。家屋やビルが傷んでいたら、応急危険度判定士のような専門家に耐震性を判断してもらうことが大切である。
 残念ながら地震は予知できない。今回は有馬−高槻断層帯との関連が注目されているが、同断層帯はZランク、つまり三十年以内の発生確率は0・1%未満。確率上、起きそうもないが、マグニチュード(M)6クラスの地震は、長期評価の対象にもなっていない。いつ、どこでも起きるのだ。

(2)自治体の発信は?

 被災地では混乱が続いている。交通網は乱れ、ライフラインはまだ完全には復旧していない。大都市の場合、経済的な被害は、地震による直接被害だけでなく、地震後の混乱によるものも大きい。日常生活が早く戻ることに期待したい。
 震災ではよく、災害弱者の安全確保が課題となる。早い復旧は災害弱者には特にありがたい。
 訪日外国人が急増しているが、言葉が通じないなら災害弱者になる。大阪だけで年間の訪日外国人の宿泊者数は一千万人を超える。多くは中国、韓国、台湾から。ホテルの中には外国語で対応できるスタッフがいない施設もある。英語だけも多い。
 外国人の中には「日本に来て初めて地震を経験した」という人が多そうだ。その恐怖感を和らげるためにも、多言語で情報を伝える仕組みが必要である。
 インターネットの普及で、災害時にネットを利用することが政府や自治体などで検討されている。情報の提供と収集を狙う。
 例えば、大阪市危機管理室は公式ツイッターで「大阪市内での災害時の情報や防災情報を発信します」と書いてある。だが、直後に「午前7時58分頃に強い地震が発生しました。テレビなどの情報を確認してください」と書き込んだ後、約四時間、情報は出ていない。発生直後に情報を発信するのは、どこの自治体でも難しい。災害対応が一段落したら、ぜひ、検討してほしい。
 ネットの活用を研究、実践している非政府組織(NGO)もある。連携するのも一案だろう。
 防災でよく話題になるのは、首都直下地震と南海トラフ地震。三十年以内の発生確率はそれぞれ70%程度と70〜80%である。この二つの地震の被害想定区域に住んでいない人の中に「自分の住んでいる所は地震はない」との誤解はないだろうか。
 大阪市は従来、南海トラフ地震と併せ市の中心部を南北に走る上町断層を警戒していた。市街地に活断層があるのは、名古屋も京都も神戸も同じである。

(3)大地動乱の時代
 南海トラフ地震は、過去にも繰り返し起き、発生前に地震活動が活発化するとの見方がある。東日本大震災によって、日本列島の地殻には大きなひずみが生じ、それがいまだに解消されていないとの指摘もある。
 どこでも起きる可能性があるM6クラスの地震だが、震源が浅ければ大きな揺れを引き起こす。被害は補強されていないブロック塀や転倒防止の対策がない家具など、弱い部分に集中する。
 日本が地震国といっても、大きな地震が続く時期もあれば、少ない時期もある。戦後は少ない方だった。その実体験をもとに油断してはいけない。むしろ「大地動乱の時代」に入ったと覚悟し、日ごろの減災に努めたい。


KEY_WORD:MIYAGI1978_:KUMAMOTO-HONSHIN_:OOSAKAHOKUBU_: