[2017_12_14_04]規制の不備断じた決定 鹿児島大准教授 井村隆介氏(西日本新聞2017年12月14日)
 
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規制の不備断じた決定 鹿児島大准教授 井村隆介氏


 
 いむら・りゅうすけ 1964年大阪府生まれ。鹿児島大卒、東京都立大大学院修了。理学博士。99年から現職。専門は自然災害、噴火史、活断層。
 愛媛県の四国電力伊方原発の運転を差し止めた広島地裁の決定は、運転を認めた原子力規制委員会の審査に対して「あなたたちが決めたことに従えば、運転できないことになりますよ」として規制の不備を断じたものだ。規制委自身がつくった「原子力発電所の火山影響評価ガイド(火山ガイド)」に沿うならば、個々の原子炉の安全性ではなく、立地そのものを不適としたのは当然の判断といえる。
 火山ガイドが策定された当初から私は、これを忠実に適用した場合には、伊方を含む全国複数の原発が運転できなくなると考えていた。
 原発の審査に火山の影響を考慮することが盛り込まれたのは、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の後の新規制基準が初めてだった。だが、基準づくりを急ぐあまりか、当時の議論は付け焼き刃で、十分に練られていなかった。これまでの審査では、火山活動を監視(モニタリング)することで、事前に対処が可能だとしてきた。現状の火山学ではそこまでは言えない。
 火山学の研究の現状では、火山ガイドのいう「第四紀以降(258万年前以降)」という長い時間の軸を考慮した場合、火山活動の有無やその規模、それが原発の運転中に起きるかどうかを確定的にいうことはできない。また、火山ガイドが想定している阿蘇カルデラなどの巨大噴火では、防御や対処が全くできない事象である火砕流が発生し、伊方原発ばかりでなく九州電力川内原発、玄海原発では、火砕流が敷地に到達する事を否定できない。
 さらに今回の決定で注目されるのは、たとえ火砕流が敷地に到達しない、より規模の小さな噴火であっても、火山灰の厚さが15センチという四国電力の想定が過少であるとも指摘したことだ。
 火山ガイドに基づいて審査された福井県の原発では、最大の降灰を10センチと想定しているが、これは九州の巨大噴火を前提とするもので、福井で10センチ降灰がある想定なら、愛媛で15センチのはずがない。決定文でも触れている阿蘇カルデラの過去の巨大噴火では、北海道でも10センチの降灰があったことが分かっている。規制委の審査は一貫性を欠いている。
 いったん決まった火山ガイドの規制基準を緩めることは到底許されない。今後の裁判でも今回の判断が踏襲されれば、2号機も含めた伊方原発はもちろん、ほかの原発の運転にも波及することは避けられないだろう。
(談)
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