[2017_11_17_01]社説:核ごみ意見会 公正な場につくり直せ(京都新聞2017年11月17日)
 
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社説:核ごみ意見会 公正な場につくり直せ

 国民合意に向けた、公正な議論の場とはとても言えない。
 原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場をめぐる意見交換会で、日当を約束して学生を動員していた問題である。
 主催する経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)は、広報の委託会社が勝手にやったこととしている。仮にそうであったとしても、背景に多様な市民参加に見せかけたい主催者側に実績づくりの意図がなかったか。
 説明では、全国で開催されている市民向けの意見交換会のうち、大阪など5都府県で動員学生39人が参加、5県では参加に至らぬとも謝礼を持ちかけられていた。
 疑念がわいたのは、過去にも同じようなことがあったからだ。政府の旧原子力安全・保安院や電力会社がシンポジウムで動員を要請したり、原発再稼働のメールを投稿させたりしている。世論形成を繰り返しゆがめていた。
 経産省は今夏、最終処分場の候補地になり得る地域の「科学的特性マップ」を公表した。その理解を広げる意見交換会だが、かえって信頼を損ねることになった。不信感を持たれたまま意見交換会を続けて、理解は広まるだろうか。
 核のごみは避けて通れない、最重要の問題である。2万トン近くが原発内に保管されているが、あと数年で満杯になると言われる。政府は再処理後の核ごみを地層処分する方針だが、その最終処分場の選定には地域の理解や国民の合意が欠かせない。
 多様で活発な議論が大切になる。そうした議論の場を担うのに、原発推進の旗を振る経産省や電力会社がふさわしいとは、到底思えない。
 これまでのシンポなどでは、原発推進の関係者が壇上に並び、参加者の質疑に答えることが多い。議論の場というより一方通行の説明会といった方がいいだろう。
 日本学術会議は一昨年、核ごみについて提言を出している。その中で原子力事業に利害関係を持たない専門委員会や市民参加の国民会議の設置を求めている。中立公正を確保した第三者委員会で、暫定保管期間を設けて地層処分のリスク評価を検討するとしている。
 検討に値する提言である。国民的な合意は、信頼を土台に形づくられるものだ。経産省やNUMOに代わって、議論の場をつくり直すことを検討すべきだ。
 さらに核ごみを増やす原発再稼働でいいのか。政府方針に固執していては議論は前に進まない。

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