[2017_10_11_04]東電・福島第一原発事故 「津波予測不能」を覆す新資料の中身とは?〈AERA〉(AERA2017年10月11日)
 
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東電・福島第一原発事故 「津波予測不能」を覆す新資料の中身とは?〈AERA〉

 東京電力福島第1原子力発電所の事故から6年が経った今、新たな事実が浮かび上がってきている。ジャーナリスト・添田孝史氏に寄稿していただいた。

【写真】保安院が想定していた津波はこちら


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 東京電力福島第一原発事故をめぐる裁判が各地で続いている。「津波は予見可能で事故は避けられた」と訴える被害者に対し、東電や国は「大津波の予測はまだ確実ではなかった」と反論。だが実際は違う。国や東電の主張を覆す報告書が政府機関から出てきたのだ。
 報告書は「『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針』の改訂に伴う東北電力株式会社女川原子力発電所第1号機、第2号機及び第3号機の耐震安全性評価に係るクロスチェック解析の報告書─地震随伴事象(津波)に対する安全性評価に係る解析─」。旧原子力安全・保安院が2010年4月30日に指示し、旧原子力安全基盤機構(JNES)が同年11月30日にまとめたもの。今年7月13日付で原子力規制委員会が開示した。
 出てきた事実は何か。原発の建築基準法に相当する耐震設計審査指針が06年に改訂された。既存の原発も含め、最新の科学的知見に照らして耐震安全性の再チェック(バックチェック)をすることになったのだ。国や東電の主張が揺れているのは、ここだ。
 安全性チェックは、A.揺れに関するバックチェック中間報告書を電力会社が提出、B.内容の妥当性を国が検討、C.津波に関するバックチェック最終報告書を電力会社が提出、D.内容の妥当性を国が検討──という手順でやる。つまり、揺れ、津波という大きく二つの内容を順にチェックするわけだが、国は東電事故当時、福島第一原発や、隣の女川原発(宮城県)に関して、揺れだけチェックした、と説明していた。
 ところが、この報告書によれば、JNESは女川原発について津波までチェックを済ませている。それも福島沖の大津波を予測して計算。津波に対する安全性チェックでは、従来からある土木学会の手法だけでなく、「津波堆積物」の最新の研究成果も活用している。
 この津波堆積物は、大津波が海底の土砂を陸上に運び込んで地中に堆積したいわば“津波の記録”だ。
 東北大学などは05年の宮城県沖地震以降、宮城・福島の両県で調査を実施し、07年度には福島第一原発6号機から北へ約5キロメートル、海岸線からは約1キロの内陸部でも堆積物を発見した。仙台平野や石巻平野では、869年の貞観地震などの津波が当時の海岸線からなんと3〜4キロ内陸まで浸水したことも分かり、この地域ではマグニチュード8クラスの地震が450〜800年程度の間隔で繰り返し起きていることが10年までに分かっていた。つまり、これだけの新たな判断材料があった、ということだ。
 JNESは、この津波堆積物の分布に合致するよう、福島・宮城沖で4種類の地震を想定。詳しい数値計算を伊藤忠テクノソリューションズに2593万円で委託し、女川原発に到達する津波の高さを求めた。それによると、四つの地震が引き起こす津波は、高さが3.2メートルから5.6メートル。敷地の高さ14.8メートルよりも低いことを確認し、解析結果を報告書に記載した。
 ここまではいい。問題は福島第一原発をチェックする東電だ。
 08年に身内の子会社、東電設計に地図上の2、4と同じような位置で同規模の地震を想定し津波を計算させた。そこから福島第一原発への津波の高さがそれぞれ9.2メートル、15.7メートルになるとの結果を得ている。敷地の高さ10メートルを超える津波。当然、この数値が裁判で最大の争点となっている。東電側は「想定はまだ不確実で、ただの試計算にすぎない」と主張する。だがJNESは保安院の指示で、東電と同様の想定に基づく計算を女川原発の安全性チェックで実施した。念を押すが、これは「試算」ではない。(ジャーナリスト・添田孝史)

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