[2017_09_29_01]大地震は弱者を「選択的」に襲う(島村英紀2017年9月29日)
 
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大地震は弱者を「選択的」に襲う

 9月7日に引き続いて19日(現地時間)にメキシコでまた、大地震があった。
 首都メキシコシティとその周辺を襲ったマグニチュード(M)7.1の地震で、330人を超える犠牲者を生んだほか、多くの建物が崩壊した。
 学校が崩れて生き埋めになってしまった小学生の救出は世界中が固唾を呑んだ。
 先年、私や早稲田大学の先生が泊めてもらった現地の科学者の家も崩壊した。もし私たちが泊まっているときだったら危なかったに違いない。
 今回の地震は1985年のメキシコ大地震のちょうど32年目の同じ日だった。1985年の地震では首都を中心に1万人以上が死亡し、3万棟以上の建物が全壊するという大被害を生んだ。
 この大地震を受けてメキシコでは、その翌年1986年に建築基準法を改訂した。新しい建築基準法では、設計や建築を行う業者は市内のどこで地盤が弱いか考慮することを義務付けられ、建築の全工程を行政当局が監督して点検することになった。メキシコの首都中心部の多くは、昔、大きな湖があったところだったので地盤が弱い。
 だが建築基準法は、以前に建った建築に適用されるものではない。今回の地震でも、多くの古いビルが倒れた。また見えないところでの予算の削減や手抜き工事も横行してきた。それが大地震で明らかになってしまったのである。
 じつは、事情は日本でも似ている。
 M7.3の阪神淡路大震災(1995年)で倒壊してしまった家は新しい家に比べて1971年以前に建ったものが圧倒的に多かった。つまり古い家が選択的にやられたのだ。
 また、地震で壊れて初めて分かった手抜きもあった。崩れたコンクリートの柱の中から塗料の空き缶や材木が出てきたのである。
 日本の建築基準法は1971年と1981年に強化された。被害が大きかった1968年十勝沖地震(M7.9)と1978年の宮城県沖地震(M7.4)がきっかけになった。
 首都圏にも古い多くの家屋やビルがある。
 現在では、多くの自治体で耐震診断や耐震補強も費用を一部は負担してくれる。耐震性のない家屋が地震で倒れて道をふさいだり、火事を出して周囲に延焼したりすると、その家だけではなくて、周囲に影響が及ぶからである。
 だが、たとえ自治体が「一部を負担」してくれても、残りの大部分の個人負担が出来ず、改良できないままの家屋も多い。
 江戸時代の瓦版では地震を起こした「地震ナマズ」が金持ちや為政者を懲らしめている図があった。
 大地震のあとには富裕な商人が蓄えてきた金を庶民に「再配分」することが行われた。材木商や大工や左官にはじまって釘屋、石灰屋、砂利屋、縄屋、綿屋、桶屋など多くの零細な職業に支払が行われたのだ。
 もしこの再配分がなければ、大衆による打ち壊しが富裕商人たちを襲う可能性があった。
 だが、現代の地震は様相が違う。現代の地震は、古くて弱い家に住み続けなければならない「地震弱者」を選択的に襲うのである。

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