[2017_09_08_02]<原発と宮城知事>30キロ圏の民意 蚊帳の外(河北新報2017年9月8日)
 
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<原発と宮城知事>30キロ圏の民意 蚊帳の外

 10月5日告示の宮城県知事選(22日投開票)まで1カ月を切った。次期知事は任期中、東北電力が2018年度後半以降に目指す女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)の再稼働を巡り、重大な判断を迫られる公算が大きい。4選を目指す村井嘉浩知事の姿勢や全国の原発立地自治体の動向から、トップが担う責任と関与の在り方を問う。
◎2017宮城知事選(中)地元同意

<「何も変わらず」>
 民意は狭められ、置き去りにされた。
 早ければ来年1月に再稼働する九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)。九電は今年4月、再稼働に必要な「地元同意」を取り付けた。
 放射能汚染が想定以上に拡大した東京電力福島第1原発事故を教訓として、国は原発30キロ圏内を緊急防護措置区域(UPZ)に定め、区域内の自治体に避難計画の策定を義務付けた。玄海原発の場合、UPZに8市町があり、4市町の首長が再稼働に反対した。
 だが、山口祥義(よしのり)佐賀県知事は玄海原発の地元同意の範囲を、立地自治体の玄海町と県に限り、他のUPZの自治体を除外した。
 「危険が及ぶことに変わりはない。立地自治体と同じように意見が尊重されるべきではないか」
 UPZの自治体で再稼働に反対する塚部芳和伊万里市長は九電と争い、安全協定の交渉を45回重ねた。同時に交わした県との覚書に「市の意向に配慮する」と明記させたが、空振りに終わった。
 塚部市長は「福島の事故が起きたのに何も変わっていなかった」と振り返る。
 地元同意の範囲を規定する法はない。立地自治体と県に限る手法は、原発事故後、最初に再稼働した九電川内原発(鹿児島県)の手続きがひな型だ。再稼働を目指す知事にとって格好の前例となり、福井県や愛媛県も踏襲した。

<事前了解に抵抗>
 東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)を抱える宮城県も状況が似通う。
 立地2市町を除くUPZの5市町(登米、東松島、涌谷、美里、南三陸)は2015年、東北電と安全協定を結び、県を通じ意見を述べられる覚書も交わした。
 だが、村井嘉浩知事は「地元同意の範囲は国が示すべきだが、示さないなら女川町、石巻市と県で十分」と主張。UPZの5市町の意向に関しては「外側に際限なく広がる」と拒む。
 県は5市町と東北電との協定交渉で、立地2市町が持つ、再稼働を左右する事前了解の権限を盛り込むことに抵抗した。
 「どこの自治体も(事前了解の)協定は結んでいない。(県の)原発の立ち入り調査の際、5市町に同行してもらえばいい」。県幹部は非公開の首長会議で発言した。
 涌谷町とともに事前了解の権限を求めた相沢清一美里町長は「基礎自治体は住民の安全確保が基本。首長の声に耳を傾けてほしい」と訴える。

<思い受け止めて>
 河北新報社が8月実施した宮城県内世論調査で、適切な地元同意の範囲について「県と立地自治体」との回答は7.6%。「県とUPZの自治体」「県と全自治体」は計85.0%に上った。
 玄海原発から最短で約8キロに位置し、再稼働に反対する長崎県松浦市の友広郁洋市長は指摘する。
 「同意権は住民の安心を担保する不可欠な権限。その思いを受け止め、国に届けることが県の役割だ」(報道部・高橋鉄男)

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