[2017_08_28_01]教科書「脱原発」から「両論併記」に 原子力学会が要求強める(北海道新聞2017年8月28日)
 
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教科書「脱原発」から「両論併記」に 原子力学会が要求強める

政府のエネルギー基本計画が影響
 東京電力福島第1原発事故から6年以上が経過し、中学、高校教科書の脱原発に関する記述が、原発推進の意見も取り入れた「両論併記」に変わりつつある。政府が2014年に原発を「重要なベースロード電源」と位置付けたエネルギー基本計画が影響しているとみられ、原発関連企業や学者でつくる日本原子力学会は各教科書会社に対し、脱原発の記述を改めるよう要求活動を強めている。(東京報道 長谷川善威)

「原子力の短所だけではなく長所も記載を」
「事故がおきたときの地域住民への被害が甚大で心配だ」
「地球温暖化の原因である二酸化炭素を出さず、安定的な供給が可能な発電方法だ」
 今年4月に使用が始まった高校現代社会の教科書には、原発について異なる見解が記されている。教科書会社の編集者は「賛否が分かれるテーマでは原則両論併記をという文部科学省の検定基準に沿った表記にしている」と説明する。
 事故直後には「安全神話は完全にやぶれた」(高校政経)などの記述も目立ったが、最近は少なくなった。編集者は「(脱原発依存を掲げた)当時の政府方針もあり、そうした表現が検定意見もつかずに通ったが、その後、政府が原発をベースロード電源と位置づけ、実際に再稼働も行われるなど状況が変わった」と明かす。
 日本原子力学会は7月、高校教科書37点の記述に関し「原子力の短所だけではなく長所も記載を」「『核のゴミ』という表現は汚いものと思わせる」などと指摘する提言書を文科省に提出し、各教科書会社にも発送した。同学会フェローの工藤和彦・九州大名誉教授は「子供たちに多様な見方を提供するために、適切な表現にしていただきたいということ」と話す。

「特定組織の利害のための活動はしてはいけない」はずが
 同学会が教科書に対する提言を始めたのは1996年。一方でこうした活動は「世論誘導だ」との批判もあり、14年に学会がまとめた福島第1原発事故についての最終報告書では「特定組織の利害のための活動はしてはいけない」とした。だが、その言葉とは裏腹に、原発事故以前は15年間に6回だった提言は、事故翌年の12年以降は5回とむしろ増加。15年からは政府のエネルギー基本計画を教科書に明記するよう求めている。
 北海道新聞社が各教科書会社に、学会の指摘を受けて記述内容を変更したことがあるか尋ねたところ「指摘を受けて即変更はしない」「個別の変更理由は明かせない」などと回答。一方で「著者と相談して検討する」「明らかな誤りは訂正する」との声も多かった。

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