[2017_08_26_01]南海トラフ地震 異常現象で事前避難 「空振り」どこまで許容 科学的根拠に疑問も(東奥日報2017年8月26日)
 政府は南海トラフ巨大地震につながる異常現象を観測し、国民に事前の避難を促す仕組みづくりに着手する。巨大津波が予想される沿岸部などの被害軽減が期待されるが、避難しても地震が起きない「空振り」がどこまで許容されるのかなど論点は多く、避難を促すほどの科学的根拠が得られるか疑問も強い。東海地震の予知を前提とする大規模地震対策特別措置法(大震法)の見直しも課題として残ったままだ。
 「ただいま警戒宣言が発令されました」。けたたましいサイレンと防災無線から流れる緊迫した一報。自治体職員や住民が一斉に避難を始めた約5分後、震度6弱の地震が発生し、その15分後には最大13メートルの津波が沿岸に押し寄せる−。
 静岡県東伊豆町は大震法に基づく予知型の訓練を30年以上にわたり毎年実施している。担当者は「訓練は住民の3分の1に当たる約4千人が参加する。事前避難は地域に根付いた」と胸を張る。
 大震法は地震の予知を受けて首相が警戒宣言を出し、地震発生前の避難を呼び掛け、鉄道などを一部停止させる。世界にも類を見ない法制度だ。
 だが事前避難の呼び掛けには「空撮り」の懸念がつきまとう。中央防災会議の有識者会議は、避難から1週間程度で大地震が発生しなければ、通常の生活に戻るのが妥当との方向性を示した。
 地震への備えは怠れないが、長期間の避難が続けば住民生活や産業への影響は大きい。全国最大の約34メートルの津波が想定される高知県黒潮町の防災担当者は「空振りが続くと住民に避難してもらえなくなる恐れがある」と懸念。尾崎正直・県知事は「空撮りを恐れず、積極的な警戒態勢が必要だ」と訴えるが、ジレンマは避けられない。
 静岡県伊豆市で旅館を経営する女性は「避難情報が出れば、観光への影響は大変なものになる。十分過ぎるくらいの科学的根拠がないと、地域が混乱する」と心配する。
 今回の有識者会議は、大地震の予知を前提として東海地震に備える大震法の見直しも大きなテーマだった。
 会合では、地震研究者から予知に否定的な意見が続出した。25日にまとめた報告書案は「大震法による現行の防災対応は改める必要がある」と明記したが、法改正などの結論は先送り。政府の南海トラフ巨大地震に対するスタンスは「地震の予知はできないが、異常データの観測を避難に活用する」という分かりにくいものになった。
 これに対し、多くの専門家は「科学の現状を理解していない」と反発する。東海地方の地震学者は「科学的な検証で認められた地震の前兆現象の実例はない」と指摘。別の研究者も「観測データなど情報は積極的に出すベきだが、次に何が起こるのかを科学的には説明できない」と批判した。
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