[2017_08_25_04]中央防災会議、地震予知前提見直し 南海トラフ 前震観測で避難も(東京新聞2017年8月25日)
 
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中央防災会議、地震予知前提見直し 南海トラフ 前震観測で避難も

 中央防災会議の有識者会議は二十五日、南海トラフ巨大地震の対策強化に向けた報告書案をまとめた。「確度の高い予測は困難」として、地震予知を前提とした防災対応を見直す一方、巨大地震につながる地殻変動や前震などの異常現象を観測した場合に住民避難を促す仕組みの検討を国に求めた。政府は、地震被害が想定される地域で複数のモデル地区を選ぶなどして、避難呼び掛けの手順や課題の検証に着手する。
 駿河湾周辺を震源とする東海地震の予知は可能として被害軽減策を定めた大規模地震対策特別措置法(大震法)の扱いが議論の焦点の一つとなっていたが、法改正や廃止の必要性にまで踏み込まず、結論を先送りした。
 報告書案は、現在の科学的知見を基に、地震の発生場所や時期、規模について「高い確度の予測はできない」と指摘。地震予知を前提とした大震法に基づく防災対応は「改める必要がある」と明記した。
 その上で、東海地震を含む南海トラフ全域での防災対策を検討。例えば、東海沖から九州沖に延びる南海トラフの東部分で大規模な地震が起きた場合に、西部分まで連動した巨大地震となる可能性を、過去の発生事例を基に示すといった形で住民に避難を促すよう提案した。
 ただ、前震や地殻変動などの異常現象に基づいて避難を呼び掛けても、実際には地震が起きないことも予想される。政府は今後、住民避難をいつまで続けるかや、被害を減らすため鉄道などの交通機関に運行停止を求めるかどうかなど具体的な課題を探る方針だ。
 報告書案はこのほか、整備が遅れている南海トラフ西側領域での地震・津波の観測態勢強化を求めた。

◆予測困難 対応修正
<解説>
 南海トラフ巨大地震対策を話し合う中央防災会議の有識者会議が、地震予知を前提とした防災対応の見直しを求めたのは、東日本大震災の発生を予見できなかった教訓から「現在の科学では、地震の正確な予測は困難」との見方が強まったからだ。政府は今後、建物の耐震化や住民の早期避難など、地震予知を前提としない対策に万全を期す必要がある。
 東海地震に備え約四十年前につくられた大規模地震対策特別措置法(大震法)は、当時の地震研究から「予知は可能」との前提で被害軽減策を定めた。しかしその後の研究で、地震発生のメカニズムが想像以上に複雑で、予測が難しいことが明らかになった。政府が科学の限界を直視し、大震法に基づく対策の見直しに乗り出したのは当然だ。
 政府は被害軽減に向け、地殻変動などの異常現象を把握した場合に住民に事前避難を促す方針だが、あいまいな情報に基づいた呼び掛けでは、逆に市民生活に混乱が出る懸念もある。異常現象を科学的に評価し、どのような根拠で避難を求めるのかを明示する姿勢が求められる。 (共同・井沢大介)

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