[2017_08_25_01]「再稼働反対」に揺れる東海村 茨城知事選ルポ(東京新聞2017年8月25日)
 
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「再稼働反対」に揺れる東海村 茨城知事選ルポ

 首都圏で唯一の原発である日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の再稼働の是非が、二十七日投開票の茨城県知事選の大きな争点になっている。七選を目指す現職の橋本昌氏(71)が「再稼働反対」と明言したことで、「村民の三分の一が原子力関係者」とされる東海村では、共感と戸惑いが広がる。 (山下葉月)
 「原発に反対すると、夫の仕事を否定するような気持ちになる。だけど、福島の事故を見れば、原発は本当はないほうがいい。悩ましい」
 夫が原子力関係に勤めていた東海村の主婦鈴木とよみさん(74)は、投開票を前に複雑な心境を語った。投票先は未定という。
 橋本氏は告示日の十日、出陣式で突然、「再稼働は認めない」と述べ、反対の姿勢を鮮明にした。七月の公約発表では、原発三十キロ圏の人口が国内で最も多い九十六万人が生活していることを踏まえ、「安全性と避難体制の実効性が確保されない状況では、再稼働は認められない」と、「条件付き」で反対を表明していた。
 さらに踏み込んで「無条件の再稼働反対」を打ち出した橋本氏を、介護施設で働く主婦津幡美香さん(46)は「事故が起きれば、介護施設の高齢者や、病気の父親を避難させられない。現職の大きな決断に感謝したい」と歓迎する。
 ただ、共感ばかりではない。むしろ、雇用面や財政的にも原子力に依存してきた村にとって、戸惑いが大きい。
 東海第二を運営する日本原子力発電の労働組合出身の寺門定範村議(61)は、橋本氏の演説をきっかけに、支援をやめたという。
 「あそこまで発言されると、村が切り捨てられるように思えた」。寺門さんは、二十日に開かれた新人の大井川和彦氏(53)の集会に参加し、「頑張ろう」と拳をあげた。
 橋本氏を推薦している山田修村長は、推進派から詰め寄られ、「今までのようには応援できなくなった」と中立を強調するようになった。
 村の脱原発派の中では、橋本氏の発言を選挙パフォーマンスととらえ、出馬当初から廃炉を唱えてきた新人の鶴田真子美氏(52)を支持する動きもある。
 村民にとっても、難しい選択が迫られることになる。村内の自治会長の男性(66)は「原発はもちろん大事なテーマだけど、是非を判断するのはなかなか難しい。福祉や雇用など、さまざまなことを考えて、投票先を決めたい」と話した。

<東海村と原発> 原子力研究の中核拠点になる日本原子力研究所の東海研究所が1957年に設置され、日本初の研究用原子炉が臨界に達した。66年には、日本初の商用原子炉の東海原発(現在は廃炉作業中)が営業を開始。99年には、核燃料加工会社ジェー・シー・オー(JCO)で臨界事故が起き、2人が死亡した。今も、核燃料の加工施設や日本原子力研究開発機構などがあり、昨年度の固定資産税収入の約83億円のうち、原子力関係だけで約34億円を占める。
◇茨城知事選立候補者(届け出順)

橋本昌(はしもとまさる)71 知事 無現<6>
大井川和彦(おおいがわかずひこ)53 (元)経済産業省職員 無新 =自公
鶴田真子美(つるたまこみ)52 NPO法人理事長 無新 =共


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