[2017_08_22_01]【よく分かる核のごみ】その6:地震・火山の専門家に聞く_「核のごみマップ 議論不十分」井村隆介・鹿児島大准教授(西日本新聞2017年8月22日)
 
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【よく分かる核のごみ】その6:地震・火山の専門家に聞く_「核のごみマップ 議論不十分」井村隆介・鹿児島大准教授

 高レベル放射性廃棄物という核のごみの処分場を選ぶに当たって、経済産業省が「科学的特性マップ」を公表したことは、選定過程に科学的な根拠を下敷きにするという新たなプロセスを追加した点で評価したい。
 しかし、今回のマップの根拠である基準の作成過程では十分な議論がなされず、このままではとても「科学的」とはいえない。各地点のリスクを推量して妥当な基準を示すのは科学の仕事だが、その基準を受け入れるかどうかを判断するのは社会の側だ。そうしたプロセスなしで、科学の名の下に自治体との交渉などが急がれてはならない。
 そもそも地球科学には限界がある。物理学や化学とは異なり、地震や火山噴火といった事象を再現、実証することはできない。岩石試料や地上からの観察、記録などから過去の出来事の実態がある程度把握できても、その延長としての将来予測には不確かさが避けられない。一つの現象に対しても専門家の間で解釈が異なることも多い。

「絶対安全、ゼロリスクない」
 今回のマップ作成では、そうしたあいまいさが恣意(しい)的に取り扱われているのが問題だ。
 例えば火山の位置は、日本列島という広い範囲の中ではある程度明らかになっているが、細かい地域内では移動することが分かっている。噴火規模も頻繁に起こる小さな噴火から、数万年に1度の破局的噴火まで桁違いの差があり、影響範囲も異なる。火口から「15キロ以遠」とされた基準が適正かどうかは、専門家でも議論の分かれるところだろう。活断層による地震も、発生時期ばかりでなく、地表断層がどのように動くかといった点で予測が難しい。土地の隆起と侵食では過去の傾向が逆転することもある。
 そうしたあいまいさを含んだ基準によるマップは、オレンジに塗られた範囲に一定の危険があるとはいえるが、グリーンなら安全だとはいえない。「分からないものは分からない」とするのが科学的な態度であり、絶対的な安全、ゼロリスクはあり得ない。
 どういう根拠によって基準が作られたかが国民に周知されていないままでは、個別の地点の可否を考えるまでに重ねてその根拠が問われるだろう。議論は堂々巡りし、いつまでも決着しない。
 本当に科学的な基準を設けるためには、これを機に専門家による十分な議論が戦わされ、その内容が国民に示され、理解される必要がある。専門家それぞれが考える妥当な基準について見解を述べて互いに検証する「ピアレビュー」を行って合意を形成し、その議論のプロセスを国民に広く公開する。その中で国民が科学の限界やあいまいさを理解し、最終的な基準をどこにするか、判断するべきだと考える。
 あるべき基準は国際的にも妥当なものでなければならない。日本の地域特性に合わせるとはいえ、日本同様に核のごみ処分を検討している各国の基準や、そこに反映された科学的な知見に照らして恥ずかしくないものでなければならない。
 あまりに長い年月でリスクを検討すること自体が難しく、数万年単位の管理という想定そのものに無理がある。むしろ、管理より隔離、人間から極力遠ざけることを優先した議論があっていい。」

 ◆井村 隆介(いむら・りゅうすけ) 1964年大阪府生まれ。鹿児島大卒、東京都立大大学院修了。理学博士。99年から現職。専門は自然災害、噴火史、活断層。(舩津康幸さんFBより)

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