[2017_08_09_02]東電の新事業計画が暗転、柏崎市長が廃炉を要請した事情(週刊ダイヤモンド2017年8月9日)
 
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東電の新事業計画が暗転、柏崎市長が廃炉を要請した事情

 東京電力ホールディングスの先行きが、ますます見通せなくなっている。
 その主因は、東電柏崎刈羽原子力発電所が立地する新潟県柏崎市の櫻井雅浩市長。同市長はかねて柏崎刈羽原発6、7号機再稼働には1〜5号機の廃炉が条件だと発言していたが、7月25日、正式にその意向を東電の小早川智明社長に伝えたのだ。
 この表明は、東電にとってとてつもなく大きなインパクトがある。昨年10月から経済界の重鎮を多数巻き込んで策定された東電の事業計画「新々総合特別事業計画」(新々総特)が、完全に画餅に帰すことになるからだ。
 東電は、新任の小早川社長と、日立製作所から招聘した川村隆会長とのツートップ体制が6月末に発足したばかり。新体制では新々総特の着実な遂行が求められており、中でも柏崎刈羽原発の再稼働は最重要ミッションである。
 東電が再稼働を急ぐ背景には、福島第1原発の廃炉や被災地への賠償、除染などの、総額21.5兆円にも上る福島関連コストがある。うち東電は15.9兆円を負担することになっており、経常利益ベースで年間約5000億円を稼ぐことが求められている。その最大のエンジンが柏崎刈羽原発で、計画では最短で2019年度に6、7号機、それに続いて1〜5号機の再稼働も視野に入れている。
 再稼働には安全協定を結んでいる新潟県、柏崎市、刈羽村の3自治体の承認が必要なため、東電は櫻井市長を無視することはできない。櫻井市長の首を縦に振らせるためには、1〜5号機の廃炉の検討が避けて通れなくなっている。

● 十数年分の付け
 関係各所では、動揺が広がっている。東電は櫻井市長の表明を受けて、「まずはお考えをしっかり受け止めて、今後、意見交換をしていきたい」と言うが、櫻井市長が市議会議員だったころから知る東電関係者は、「市長は論理的で堅実な人。突拍子もないことを言う人ではないのに」と首をかしげる。
 また新潟県の米山隆一知事も1〜5号機の廃炉計画提出が「6、7号機の承認とバーター(交換条件)になるということは論理的につながらない」と見解の相違を表明。加えて、要望を出した張本人である柏崎市関係者からも「求める廃炉計画の要件など詳細は決まっておらず、市長の要望も必ずしも明確ではない」との声が漏れる。
 もっとも、この事態を招いた元凶は東電にあることも事実。市長が今回の条件を出したきっかけは、今年2月に問題となった免震重要棟をめぐる説明不足だったといわれている。その他にも市長は、市議会議員時代に、不祥事や混乱を繰り返す東電に何度も裏切られてきた過去があるという。
 東電は十数年分の付けを、新々総特の瓦解という、思わぬ形で払うことになりそうだ。

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