[2017_06_09_04]古文書と高浜(宮崎日日新聞2017年6月9日)
 
参照元
古文書と高浜

 戦国時代の宣教師で信長、秀吉とも面識のあったルイス・フロイスの「フロイス日本史」に1586(天正13)年の天正地震に関して「若狭の国の長浜」という地名が出てくる。
 「長浜という城の城下で大地が割れ、家屋の半ばと多数の人が呑(の)み込まれた。若狭の国には海に沿って、やはり長浜と称する別の大きい町があった。揺れ動いた後、海が荒れ立ち、高い山にも似た大波が町に襲いかかり、ほぼ痕跡をとどめないまでに破壊した」。
 若狭とは福井県のことだが長浜という町はない。東大地震研編「新収日本地震史料」(1981〜94年)が「長浜は高浜の誤りであろうか」としたことから地元で騒ぎになった。高浜には原発があるからだ(磯田道史著「歴史の愉しみ方」)。
 関西電力が高浜原発3号機を再稼働させた。先に再稼働した4号機はすでにフル稼働状態で発電と送電を実施している。関電の原発では高浜から約14キロ東に離れた同じ福井県にある大飯3、4号機も原子力規制委員会の審査に合格しており今秋以降に再稼働する。
 現行の住民避難計画は高浜、大飯両原発が同時に事故を起こす事態を想定していない。また高浜原発の緊急時対策所は完成時期の延期が繰り返され、甲状腺被ばくを防ぐため住民に配布している安定ヨウ素剤も行き渡っていないという。
 古文書に端を発した騒ぎはどうなったか。関電は琵琶湖沿岸の長浜に津波が来たという別な古文書を探し出し、フロイスの長浜は滋賀県長浜のこと、とけむに巻いた。天正の宣教師が目を白黒させそうな稼働ありきの古文書活用術である。

KEY_WORD:TENSHOU_:TAKAHAMA_:TSUNAMI_: