[2017_04_27_01]再処理工場の安全対策工事費用、当初の10倍超の見方も(デーリー東北2017年4月27日)
 
参照元
再処理工場の安全対策工事費用、当初の10倍超の見方も

 3年超に及んだ使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)の新規制基準適合性審査が実質的に終了し、日本原燃(工藤健二社長)は近く、原子力規制委員会からの指摘事項を盛り込んだ「補正申請書」を提出する。原燃にとっては念願の審査合格と、その先に待つ工場完成に向け一歩前進する見通しだが、約300億円と見積もった当初の安全対策工事費用は数千億円規模に膨らむ公算だ。
 増額の背景にあるのは、東京電力福島第1原発事故を受け必要となった重大事故対策や耐震性の見直しだ。
 同工場の主要工程は約20の建屋にまたがり、想定される事故は原発以上に複雑多岐にわたる。原燃は、規制委が「箸にも棒にも触れないレベル」と酷評した2014年の申請当時から3年がかりで“及第点”を得るに至った一方で、同時多発的な事故シナリオも念頭に多重の安全対策を次々と打ち出し、それに対応した移送ポンプなどの資機材整備費が重くのし掛かる。
 耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)を審査申請時から100ガル引き上げ、700ガルに見直したことも影響。これらの対策費用は、審査申請前の13年12月に公表した約300億円から1年後に約410億円、15年度決算までの実績では約540億円に積み上がる。
 原燃に再処理事業を委託する国の認可法人「使用済燃料再処理機構」(青森市)は「事業費を精査している段階でコメントできない」と述べるにとどめるが、「許可後は膨大な工事が進むフェーズに入る」(工藤社長)。関係者の間では対策工事費は当初の10倍以上に跳ね上がるとの見方も浮上している。
 原発の非常事態では、高温、高圧の原子炉をいかにコントロールするかが最重要。対する使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)は、核燃料のせん断や溶解、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の製造といった主要工程が約20建屋に入る。フル稼働時で年間800トンを処理し、使用済み核燃料の貯蔵プールは容量3千トン。原発と桁違いの放射性物質を扱う点でも、潜在的なリスクは多岐にわたる。
 電源や冷却手段の多重化、自然災害への備えといった安全対策は原発と共通する項目が多い。工場で特に対応が急がれる重大事故の一例は「蒸発乾固」。ガラス固化体の原料となる廃液などの貯槽が沸騰し続け、揮発した放射性物質が大量に放出される事態だ。
 原燃は外部電源が途絶えた場合に備え、既設の非常用発電機のほか、新基準施行後に電源車を6台に倍増。貯水槽から水を引き込む移送ポンプは大型、中型で30台以上を配備する。発電機や電源車が仮に使えなくても、冷却配管や貯槽そのものに直接注水する体制を整える計画だ。
 貯槽内では水素爆発の恐れもあるため、水素を追い出す可搬型の空気圧縮機を確保。蒸発乾固、水素爆発という二つのケースが同時に起こり得る、対策が重要なタンク類は約30カ所に上るという。
 事故の引き金と想定される地震。原燃は2016年2月に基準地震動を700ガルに引き上げたことを一因に、事故対応拠点(緊急時対策所)や貯水槽の新設を決めた経緯がある。岩盤まで掘り下げ耐震性を高める上、対策所は既設と比べて延べ床面積が3倍程度、収容可能人数は1・8倍に増強。事故の発生と拡大を多重に防ぎ、万一の際でも放射性物質の放出をできる限り食い止める―。こうした対策の根底を流れる思想は「深層防護」と呼ばれる。
 ただ、その費用対効果に疑念を抱く向きは少なくない。既に2兆円以上の建設費を投じた工場は核燃料サイクルの要。しかし、高速増殖炉計画の後退によって足場は揺らぐ。「原型炉もんじゅの廃炉はサイクルの『終わりの始まり』だ」。文部科学省の元幹部は、これまでの本紙取材に恨み節混じりで吐き捨てる。
 「安全なくしてサイクル事業なし」。工藤健二社長は4日、関係者ら2千人以上を集めた品質保証大会でこう訴え、「17年度は良い一年だったと来年、この場で話せるよう頑張りましょう」と呼び掛けたが、もとより18年度上期の完成目標は厳しさを増す。補正書提出後も多難な道のりが続きそうだ。

KEY_WORD:ROKKA_:FUKU1_: