[2017_04_10_02]異例の東電トップ人事、改革めぐり火種残す(東洋経済オンライン2017年4月10日)
 
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異例の東電トップ人事、改革めぐり火種残す

 福島第一原発事故への対応に追われる東京電力ホールディングスで、異例のトップ人事が決まった。 5年にわたって会社を率いてきた廣瀬直己社長に代わり、53歳の小早川智明取締役(東京電力エナジーパートナー社長)が6月の株主総会後に社長に就く。新会長には、日立製作所の経営改革で手腕を発揮し、経済産業省が設置した「東京電力改革・1F問題委員会」(以下、東電委員会)のメンバーを務める川村隆・同社名誉会長が就任する。
 次期社長の小早川氏は、かつて主流といわれた総務や企画の経験がない反面、法人営業の経験が長い。「新電力との競争の厳しさを知り、東電では数少ない改革マインドを持った人物」(経産省幹部)と見なされている。

■役員平均年齢は約53歳

 世代交代を狙った大規模な若返り人事には、社内でも驚きの声が上がった。石崎芳行副社長(福島復興本社代表)や姉川尚史常務(原子力・立地本部長)など各部門の“顔”が相次いで退任。社内役員の平均年齢は60.2歳から52.7歳へと7.5歳も若返る。
 こうした若返り人事のレールは、東電の大株主である国や、JFEスチール出身の數土(すど)文夫会長ら社外役員が敷いたものだ。4月3日の記者会見で數土氏は経産省の東電委員会が昨年12月に公表した提言を引き合いに出し、「その骨子は次の若い世代に経営を移譲して、非連続の改革に取り組むべしということだった」と強調した。
 しかし、国のお墨付きを得て決定した若返り人事には不安も付きまとう。

「間の飛んでしまう人たちが出てくる」
 「若返りに必ずしも賛成ではなかったのでは」と記者会見で問われた廣瀬氏は、「私は反対していない」と言いつつもこう付け加えた。「今回のような大規模な若返りに当たっては、間の飛んでしまう人たちが出てくる。そういう人たちのモチベーションを高めつつ若返りを図ることには難しいところがある」。
 廣瀬氏自身、3月17日の電気事業連合会での記者会見で、続投とも受け取れる発言をしていた。
 結果的に、廣瀬氏は社長を退くものの、代表権を持たない副会長(福島統括)として残ることになった。反面、廣瀬氏と同年代の役員の多くは退任する。數土氏ら社外取締役の多くも退く。

■數土、廣瀬両氏の確執

 社内外で広く知られていることだが、數土氏と廣瀬氏の間では経営方針をめぐって昨年来、確執が続いていた。
 中部電力と燃料調達事業などを統合した合弁会社JERA。同社の会長に東電の指名委員会が社外から外国人経営者を招こうとしたことに、プロパー起用を重視すべきとの立場の廣瀬氏が反対の意思を示した。昨年2月のことだ。
 同3月末には廣瀬社長を交代させる人事が検討されたが、東電OBらによる官邸や自民党への根回しが奏功して廣瀬氏は続投することに。一方、同4月1日付の幹部や一般社員の人事が前日夕方まで決まらず、混乱が起きた。
 そのため、數土氏ら社外取締役や経産省出身の幹部は今回、時間をかけて外堀を埋める戦術を駆使した。
 それが、昨年7月28日に発表された「激変する環境下における経営方針」だ。その記者会見で経産省出身の西山圭太取締役は、東電が賠償や廃炉費用の膨張など困難に直面していると表明。「あらゆる分野での他社との提携、アライアンス」とともに、「人材の育成、登用を含めた組織能力の強化」の必要性を指摘した。
 この経営方針発表を踏まえて昨年9月、経産省は「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」と東電委員会を新設。東電改革を電力システム改革のフロントランナーに位置づけようとした。後者の委員会で川村氏らは、「オブザーバー」の廣瀬氏を前に、組織の若返りや他社との事業統合の必要性を指摘した。
 東電委員会は昨年12月、福島事故に関する費用が22兆円規模に増大するとの試算を公表。国による圧力が強まる中で、東電社内の一体感を重視する業界再編より廣瀬氏は追い詰められていった。
 もっとも、求心力の象徴だった廣瀬氏の処遇を誤った場合、社内の反発を招きかねない。そこで決まった、代表権を持たない福島統括副会長としての処遇。廣瀬氏は「東電のために役に立つのであれば、副会長でも平社員でも関係ない」と記者会見で述べた。
 ただ、経営陣の一角に廣瀬氏という実力者が残ることで社内に安心感が広がる一方、経産省や川村新会長らとの摩擦も懸念される。東電改革は難局が続く。

岡田広行

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