[2017_03_31_03]<東電>新体制、多難な船出 改革へ壁高く…首脳人事発表(毎日新聞2017年3月31日)
 
参照元
<東電>新体制、多難な船出 改革へ壁高く…首脳人事発表

 東京電力ホールディングス(HD)は31日、日立製作所の川村隆名誉会長(77)を会長に起用するなど新しい首脳人事を発表した。経営陣を一新し、福島第1原発事故の処理費用工面に向けて改革を加速させる狙い。だが、事故処理費用は大幅に膨らみ、改革もハードルが高い。多難な船出となりそうだ。【岡大介】
 新社長には、東電HD取締役で小売子会社社長を兼務する小早川智明氏(53)を昇格させ、若返りを図る。現社長の広瀬直己氏(64)は取締役も退き、新設の副会長に就く。6月の株主総会を経て就任する。
 東電は実質国有化されており、人事には政府の意向も色濃く反映されている。川村新会長を起用した狙いの一つは社内融和だ。
 ある東電幹部は「川村さんが来てくれるなら、ありがたい」と打ち明ける。現会長の数土(すど)文夫氏(76)は製鉄大手JFEホールディングス出身。2014年に就任し、コスト削減を進めたが、生え抜き社員からは「安定供給を重視する電力会社の特徴を分かってもらえない」との不満も出ていた。日立は原子炉メーカーで、川村氏は電力事業への理解があるとされ、生え抜き社員との関係修復が期待されている。
 もう一つは経営手腕だ。日立は08年のリーマン・ショックで巨額の赤字に転落したが、直後に会長兼社長に就任した川村氏は業績をV字回復させた。今回の人事では、小早川氏のほか、送配電などの子会社社長にも50代を登用した。政府は、実績のある川村氏が、若い経営陣を率いて改革を進める青写真を描く。
 だが、道のりは険しい。福島原発事故の賠償や廃炉などの処理費用の新たな試算は21.5兆円と従来想定から倍増した。多くを東電が自力で賄う必要があるが、収益力強化は難題だ。
 東電が頼みにする柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働は、慎重派の知事が就任し、めどが立たない。
 事業再編による経営効率化も目指すが、政府介入を招く余地があり、他社は再編に及び腰だ。
 小早川氏の経営手腕も未知数だ。4月からガスの小売りが全面自由化され、電力会社も新規参入のチャンスだが、小早川氏が社長を務める小売子会社は参入が7月と出遅れる。「経営者として判断が遅い」との指摘もある。
 川村氏にも懸念がある。日立は東電に原発を納入し、福島原発事故の廃炉・汚染水対策にかかわる。仕事を発注する東電と受注する日立の立場が重なり、「(一方の利益が、もう一方の不利益になる)利益相反」を心配する声もある。

 ◇政府と「生え抜き」綱引き

 首脳陣が一新された今回の人事。関係者の話を総合すると、経営に強い影響力を持つ政府と、東電生え抜き幹部との綱引きの結果、会長と社長の同時退任になったという。
 政府が起用を主導した数土会長は生え抜きの反発を招き、生え抜きのトップである広瀬社長と対立した。経済産業省は昨年から、水面下で広瀬社長を副会長に棚上げする「広瀬降ろし」に動いた。
 これに対し、広瀬氏は記者会見などで「私が先頭に立って会社を引っ張っていきたい」などと続投への意欲を表明。社員との会合を重ね、留任に向けたアピールを繰り返した。
 対立が続く中、続投に意欲的だった数土氏が今年2月ごろ「広瀬社長が退任すれば、自分も降りる」と周囲に語り始めた。
 政府も生え抜きとの関係が悪化する一方の数土氏の交代を探るようになり、後任選びが本格化。福島原発事故費用の新試算を昨年末にまとめた政府の有識者会合メンバーで経団連副会長も務めた川村氏が浮上した。広瀬氏は外堀を埋められた形で退任に追い込まれた。
 広瀬氏は2012年の社長就任後、東電への批判の矢面に立ってきた。今後は副会長として、福島原発事故への対応に専念する。
 ただ、東電では「副会長という中途半端な地位で、取締役でもない。被災者らから『軽視されている』と思われないか」(中堅社員)との不安も漏れる。「福島への責任という視点を欠いた人事抗争」との声もある。

KEY_WORD:汚染水_: