[2017_03_06_05]糸島ブランドを誇る農家や移住者が玄海再稼働に「納得できない」理由(西日本新聞2017年3月6日)
 
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糸島ブランドを誇る農家や移住者が玄海再稼働に「納得できない」理由

原発30キロ圏なのに「地元同意」外

 福岡市都心に近い自然豊かな土地として移住者が増えている福岡県糸島市。ただ、佐賀県玄海町にある九州電力玄海原発の30キロ圏に入っており、再稼働が「糸島ブランド」に影を落としかねないと懸念する声もある。再稼働の前提となる「地元同意」の対象は事実上、玄海町と佐賀県に限られる。その玄海町長は6日にも再稼働への同意を表明する。「賛否を表明する権利がなく、リスクだけ背負うのは納得できない」。こうした声が届くことはないのか。
 「糸島市には再稼働の同意権がありません。他の自治体任せにしていいのでしょうか」。同市の調理師志田浩一さん(32)は、こんな文言を添えた署名簿を携えて半年間、友人と一軒一軒を訪ねた。3081人分の署名を集め、昨年2月に市に提出したが、市は「同意権は立地自治体の意向が尊重されるべきだ」とするだけ。市議会にも請願を出したが、不採択となった。
 福島第1原発事故を受けて2013年、東京都から妻と移住した。当時は「取り返しのつかない事故が起きたから、原発は稼働しない」と思った。骨をうずめるつもりで本籍も移しただけに、署名活動に力を注いだ。
 移住から4年。4月からは地域の役員を任され、「やっと地域の一員になれた」と思う。再稼働の手続きが進む現状を「近くに住んでいるのに『無関係』とされているのがもどかしい」。23日には福岡県などが住民説明会を開くが、内容は再稼働を前提とした安全対策にとどまる。
 前原市、志摩町、二丈町が合併し「糸島市」となった10年以降、福岡市への利便性が高く、自然に囲まれた地域として市は「糸島ブランド」の推進戦略を進めてきた。移住者は年々増え、15年度は約3900人に上る。
 地元住民の胸中も複雑だ。ゲストハウスを運営している山内奈留美さん(36)は前原で生まれ育った。福島県から家族旅行で来た子どもが「この海は泳いでいいんだね」と喜んだ姿が印象に残ったといい、「事故があれば糸島の自慢の海も泳げなくなる。原発は動かしてほしくない」と話す。
 ブランド化している農産物への影響を懸念する声もある。地名から「志摩の蜜芋」と名付けたサツマイモを生産する山北政登さん(62)は10年前に比べ収入が倍増したという。「住民が地道にPRして、ようやく火が付いたブームが台無しになる恐れがある。市はもっと当事者意識を持って、再稼働と向き合うべきだ」と憤った。

 同意対象拡大を 周辺自治体

 地元同意について国のエネルギー基本計画は「立地自治体などの理解と協力を得るよう取り組む」とするが、法律上の規定はない。既に再稼働した3原発では立地自治体と県に限られた。
 玄海原発を巡っては、ほぼ全域が30キロ圏内に入る佐賀県の伊万里市や唐津市の市長が対象範囲の拡大を求めているが、同県は同意対象の議論から距離を置く。玄海原発が立地する玄海町議会は2月24日、原子力対策特別委員会で同意を可決。岸本英雄町長は今月6日にも同意を表明し、県の対応に焦点が移る。
 山口祥義知事は、住民理解が得られれば再稼働の判断を示す考えを示しているが、その基準を明確にしていない。先月14日の記者会見では「もともと(地元の)同意権は存在しない」と発言。全国の現職、元職の首長100人でつくる「脱原発をめざす首長会議」(東京)が「知事発言は(同意権拡大の)要望に冷や水を掛け、原子力政策に禍根を残す」と抗議した。

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