[2017_02_20_02]<熊本地震>阿蘇で地層が1.5メートル横ずれ(毎日新聞2017年2月20日)
 
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<熊本地震>阿蘇で地層が1.5メートル横ずれ

 ◇九大などの研究チーム発表
 熊本地震の後、熊本県阿蘇市の内牧(うちのまき)温泉で一時的に湯が出なくなったのは、地下約50メートルから上の地表部分の地層が水平方向に約1.5メートル移動したことが原因だったと、九州大などの研究チームが20日、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)に発表した。移動した地層は表面積で数平方キロに及んだ。傾斜地でもない場所で大規模に地層がずれる現象が確認されたのは初めてという。

【図説】内牧温泉で起きた地層の移動

 九大カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の辻健准教授(地球物理学)を中心とした研究チームは熊本地震後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星データを解析し、地震の揺れによる地表変動を調べた。その結果、内牧温泉周辺の地表が、北西の阿蘇外輪山方向に移動していたことが分かった。
 移動方向の北西側の端では、水田脇のコンクリートブロックが持ち上がるなど地層が圧縮された形跡が見られ、逆に南東側の端には最大で幅1メートル以上の大きな亀裂が多数できていた。研究チームはこの亀裂について、熊本地震を引き起こした布田川(ふたがわ)断層の横ずれではなく、地層が移動して引っ張られたことによるものと結論付けた。北西側の端から南東側の端まで約2キロあり、全体で数平方キロが移動したことになる。
 研究チームがさらに、温泉の井戸内部を小型カメラで調査したところ、五つの井戸の深さ約50メートル付近で、湯をくみ上げる管が破損したり、曲がったりしていた。
 内牧温泉付近では、地下約50メートルに温泉脈から上がってきた湯がたまる「温泉貯留層」があり、その上は水を通しにくい泥の層になる。温泉貯留層は小石などで構成されているため、地震の揺れで石の隙間(すきま)が狭まって水圧が高まったことにより液状化を起こし、この層が「滑り面」となって上の地層が移動した可能性が高いと見ている。
 調査では、地表部分の地層は移動したものの、地下50メートルより下にある温泉脈に変化はなく、掘削し直せば湯が出ることも分かった。
 辻准教授は、この現象が水分を多く含む温泉地特有の可能性が高いとした上で「浅い場所で動けば、建物の基礎にダメージを与える可能性もあるので、どこでこういう現象が起きるのかを調べることが重要だ」と話した。今後、温泉貯留層を構成する石を採掘するなどし、滑り面の特徴を調べる方針だ。
 阿蘇温泉観光旅館協同組合によると、内牧温泉の15軒で昨年4月16日の本震後に湯が出なくなったり、出にくくなったりするなどしたが、現在はほぼ復旧した。組合の松永辰博事務局長(53)は「メカニズムが分かれば、お客さんにも説明しやすいし、防災対策にもつながる」と語った。【山下俊輔】

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