[2017_02_09_04]日立vs三菱重工、7600億円を「押し付け合い」(東洋経済オンライン2017年2月9日)
 
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日立vs三菱重工、7600億円を「押し付け合い」


 「倍率ドン! さらに倍!!」

 名門企業間の争いは、昭和の時代に流行ったクイズ番組の決まり文句を彷彿とさせる展開となった。
 日立製作所は2月8日、三菱重工業から南アフリカ共和国の火力発電プロジェクトに関連して7634億円の請求を受けた、と発表した。請求額は従来の3790億円から一気に2倍になった。

■合弁で事業を営むパートナーだが・・

 争点となっているのは、日立が2007年と2008年に受注した石炭火力発電用ボイラー設備計12基、総受注額5700億円のプロジェクト。もともとの計画では2011年に1号機の運転が開始される予定だった。
 両社は2014年2月に火力発電事業を統合、合弁会社(三菱重工65%、日立35%)の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)で事業を営んでいる。事業統合に当たり、日立の火力事業の価値を算定し三菱重工に譲渡する形を取った。その中で遅延していた南アのプロジェクトは、統合前の原因は日立が、統合後はMHPSが責任を持つことを前提に暫定価格で譲渡し、その後、最終譲渡金額を確定し差額を調整する契約だった。
 しかし、当初定めていた期間内では合意できず、昨年3月末に三菱重工が日立に、三菱重工が主張する差額を請求。日立が拒否したため、5月の決算発表時に両社の対立が表面化していた。
 2月1日の2017年3月期第3四半期の決算発表で、この問題について問われた日立の西山光秋CFOは「協議中で何も決まっていない」と語っていた。

なぜ請求額が倍になったのか

 ここに来て請求金額を2倍に引き上げた三菱重工は「請求は事実だが、詳細はお答えできない」とするが、大幅な納期遅れに伴うコストオーバー分を再算定し、統合前の日立の責任として請求したものと考えて間違いない。同プロジェクトはMHPSが引き継いだ後の2015年8月に1基目がようやく運転を開始したが、終わりはまだ見えない。

■妥協点を見い出せるか

 この請求について、日立は「法的根拠に欠けるため請求に応じられない」、三菱重工は「契約上、請求権の根拠がある」と平行線。一方、両社とも誠実に交渉を続けると強調する。
 しかし、ここまで金額に開きがある中で妥協点を見い出せるのか。合意できない場合、契約では解決策も定められているもようだが、それで納得できるかはわからない。真っ向から対立している以上、安易に妥協すれば、それぞれ株主代表訴訟のリスクもあるからだ。
 三菱重工側は請求額の一部を貸借対照表の「その他流動資産」に計上しており、支払いがなされなければ損失を計上することになる。対する日立は、合理的に見積もった金額は引き当てているとするが、その金額は非開示。だが、少なくとも7000億円といった金額でないことは確かだ。いずれにしろ、どちらか、もしくは両社とも数千億円の損失計上のリスクを抱えていることになる。
 大型プロジェクトでのコストオーバーといえば、東芝の米国原子力発電所案件がある。三菱重工でも大型客船、国産旅客機MRJなどで大きな傷を負った。
 ビジネスが大型化、グローバル化する中、受注時のリスク管理とプロジェクト遂行中のマネジメントを失敗すれば、名門企業といえども経営が傾きかねない。両社にとっても、その影響は決して小さくなさそうだ。

山田雄大

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