[2017_01_31_03]東芝が海外での原発建設から撤退! 核なき未来がまた一歩近づいた! 福島第一原発事故の影響とその後の反原発運動の全世界的な発展によって核産業の未来が閉ざされてきたことにある 明日に向けて(1347) 守田敏也 (フリーライター)(たんぽぽ2017年1月31日)
 
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東芝が海外での原発建設から撤退! 核なき未来がまた一歩近づいた! 福島第一原発事故の影響とその後の反原発運動の全世界的な発展によって核産業の未来が閉ざされてきたことにある 明日に向けて(1347) 守田敏也 (フリーライター)

◎1月27日、東芝が重大な決定を発表しました。海外での原発建設から撤退するなど、同社の主力に位置づけてきた原発事業の大幅な見直しをするというのです。
 理由はアメリカにおける原発事業で7000億円とも言われる赤字を出して経営が極度に悪化してしまったためです。
 そもそも東芝は2016年9月末時点で株式資本が3632億円しかなく、資本増強をしないままに7千億円の赤字が確定すれば債務超過=倒産にすら発展しかねない状況にあります。
 直接的な理由は、東芝の原子力部門の子会社であるアメリカのWH(ウェスチング・ハウス)社が買収したアメリカ原発建設会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社が巨額の赤字を持っていたことが判明したことによるもの。
 なぜか東芝は調査が不十分なままにこの会社をWH社にほぼ対価なしで買収させてしまい、なんと7000億円とも言われる赤字をそのまま背負って大苦境に陥ってしまったのです。

◎この東芝の大崩壊について、マスコミ各社は主にアメリカにおける原発事業での失敗からばかりから原因分析を行っていますが、僕にはそこから解き明かすのが正しいとは思えません。
 最も重要なのは福島第一原発事故の影響とその後の反原発運動の全世界的な発展によって核産業の未来が閉ざされてきたことにあるからです。その意味で私たちの努力が原発メーカーを追い詰め、核なき未来をまた一歩手繰り寄せているのでもあるのです。
 このことをより詳しく分析していきたいと思いますが、その時に何よりも踏まえておかなければならないのは、東芝は福島第一原発事故の責任主体であるということです。
 なぜか。福島第一原発1号機はアメリカのGE(ゼネラル・エリクトリック)社製ですが、2号機はGE+東芝、3号機は東芝純正だったからです。ちなみに燃料プールが大危機に陥った4号機は日立製作所製です。
 東芝はアメリカGE社とともに本来、あの事故に対する重大な製造者責任を負っています。にもかかわらず追及されないのは、原発事業だけ製造者責任が免責されているというモラル違反が行われているからです。
 だから東芝は法的経済的追及を免れているのですが、しかし道義的に言って、あれほどの事故を起こして許されるはずなどありません。膨大な放射能をまき散らし、いまなおたくさんの人々を苦しみに追い込んでいるのが東芝なのだからです。
 その意味であの事故は、福島原発事故というよりも、東電・GE・東芝原発事故と呼んだ方が正確であり、東芝は道義的に責任を謝罪し、被災者を救済し、過ちを認めて原発事業からの撤退に向かうべきだったのです。
 にも関わらず東芝は、福島原発事故後もなんら反省せずに原発建設に突き進みました。しかも日本での新規建設が難しいと考え、大企業べったりの安倍政権と二人三脚を組みつつ、海外での原発建設を加速させようとしたのでした。
 しかしこれが路線的に大失敗し、大変な損益を出してしまって、とうとう撤退に至りつつあるのです。

◎もう少し詳しく見ていきましょう。
 東芝は2000年代に入ってアメリカ・ブッシュ政権が「原子力ルネッサンス」を叫びはじめ、当時の日本の小泉政権がこれに呼応して原発の海外輸出などをはじめて掲げた「原子力政策大綱」を打ち出す中で、原子力部門の強化に走りました。
 目玉となった事業は、アメリカの原発メーカーのWH(ウェスチング・ハウス)社を買収することでした。
 現在、世界で主に使われている商業用原子炉は、沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の2つのタイプに分かれます。もともとGEから技術を学んだ東芝は沸騰水型原発を手掛けてきましたが、WH社は加圧水型原発を作ってきたメーカーでした。
 東芝は2006年にやはり加圧水型原発のメーカーである三菱重工と壮絶な買収合戦を繰り広げた後、なんと当時の市場価格の倍以上とも言われた値段(5000〜6000億円)でWH社を買収し、原子力産業の世界のリーディングカンパニーに躍り出ようとしたのです。
 しかし直後の2008年にリーマンショックが起こり、もうそれだけで東芝には大きな経営的歪が出てしまいました。
 まるで博打を打つような強引な買収を行ったため、リーマンショックを受けて、資金繰りが一気に悪化してしまったからですが、なんと東芝は事実を公表せず、粉飾決算を行うことで経営悪化を隠したのでした。

◎東芝に買収されたWH社はアメリカで2008年にジョージア州ボーグル原発3,4号機、サウスカロライナ州VCサマー原発2,3号機と、続けて4基の原発の受注に成功。2009年にはフロリダ州のレヴィ原発1,2号機も受注しました。
 東芝本体も2008年にテキサス州でサウス・テキサス・プロジェクトで1,2号機の受注に成功。こちらはWH社製と違って東芝が手かげて来た沸騰水型原発の改良型(ABWR)での受注でした。
 東芝は粉飾決算を隠したまま、WH社製と東芝純正の新たな原発を次々と作りだすことで収益をあげ、経営悪化を乗り越えて大きく利益を出そうとしていたのでした。
 東芝のこの思惑を大きくとん挫させたものこそ、福島原発事故とその後の民衆運動でした。
 事故を起こした原子炉に東芝が関わっていたことから、計画が一気に冷えてしまうとともに、日本国内を始め、全世界で脱原発の機運が高まることにおされて、アメリカ原子力規制庁が原発に対する規制を大幅に引き上げたためでした。
 このため建設コストも大幅に拡大してしまい、受注当時の計画のほとんどがほころび出し、WH社も東芝本体も、崩壊の道をひた走りだしたのです。
 粉飾決算からの脱却の道を閉ざされてしまった東芝は、社内で「チャレンジ」と呼んだ、あまりに無茶な営業目標の達成を社員に強い、社員を疲弊させながらますます粉飾決算体質を強めていきました。
 やがてこの粉飾決算が社内からのリークなどで明るみに出るや、苦境からの脱却のために有料部門だった医用機器部門を売却し、無謀にも半導体とともに原子力事業にさらに全社の力を傾注し始めました。ところがすぐさまアメリカで焦げ付きを大幅に増やしてしまい、とうとう超過債務の危機の前にすら立ってしまったのです。

◎まさにいま、私たちの眼前で起こっているのは、原子力村−核産業の崩壊過程です。
 繰り返しますが、これは一つにはあの巨大事故の責任主体であるがゆえに東芝が背負った宿命であり、二つには福島第一原発事故で覚醒した日本の民衆、そして世界の民衆による脱原発運動−核なき未来の希求の力がもたらしつつあるものに他なりません。 この点をしっかりと踏まえて、反原発・反核運動を強めていきましょう。
 そのためにも東芝の崩壊劇の分析をもう少し続けていきましょう。
 続く

◎ なお東芝の崩壊過程について、僕はこれまでも記事を書いてきました。以下に紹介しておきます。とくに「明日に向けて(1199)」では東芝が日本経済、ないし日本社会で占めてきた位置についても分析しています。ご一読下さい。

明日に向けて(1117)東芝不正会計問題の背景にあるのは原子力産業の瓦解だ!‐1 2015年8月2日
明日に向けて(1140)沈みゆく原子力産業−東芝上場廃止か?(東芝不正会計問題を問う―2)2015年9月2日
明日に向けて(1198)東芝が5500億円の赤字―原発再稼働強行は瀕死の原発メーカーを守るため 2015年12月25日
明日に向けて(1199)原発メーカー救済のための危険な原発再稼働と原発輸出を許してはならない! 2015年12月26日

守田敏也 MORITA Toshiya
自己紹介:同志社大学社会的共通資本研究センター客員フェローなどを経て、現在フリーライターとして取材活動を続けながら、社会的共通資本に関する研究を進めている。
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)

(守田敏也氏の[blog]より、了承を得て転載)

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