[2017_01_24_01]社説 台湾の脱原発  重い決断、世論が後押し(京都新聞2017年1月24日)
 
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社説 台湾の脱原発  重い決断、世論が後押し

 台湾がアジアで初めて2025年までの脱原発を決めた。蔡英文政権は運転延長や新規稼働の道を閉ざすことで全ての原発廃止へかじを切った。
 東京電力福島第1原発事故に衝撃を受けて強く原発ゼロを望んだ国民世論が、政治的決断を後押ししたと言える。
 台湾の立法院で「原子力発電設備は25年までに全て運転を停止すべきだ」と明記した改正電気事業法が成立した。3カ所の原発計6基の原子炉はいずれも老朽化が進み、第1原発1号機が来年12月に40年の稼働期限に達するのをはじめ、25年5月までに順次、「寿命」を迎える。
 脱原発の選択は福島事故後、原発への不安が一気に高まったことが大きい。日本と同様に地震多発地域であり、万一の際に避難しにくい島でもあるため、福島で起きた過酷な事故を人ごとと受け止められなかったに違いない。
 台湾では事故直後の11年4月に大規模な脱原発デモが起き、その後も関心は衰えなかった。日本メーカーが原子炉などを輸出して建設中だった第4原発は工事凍結に追い込まれた。
 福島事故当時、野党だった民進党主席の蔡氏は世論の高まりを踏まえ脱原発の姿勢を鮮明にした。昨年1月の総統選で「非核家園(原発のない郷土)」の実現を看板政策に掲げて当選した。
 とはいえ産業界からは電力供給の不安定化や電気代高騰を懸念する声が上がり、脱原発の進め方に対する不安は根強い。現在、電力の約16%を原子力に頼り、太陽光や風力などの再生可能エネルギー比率は約4%にすぎない。その比率を25年までに20%へ引き上げ原子力を補完するプランを描くが、電力自由化により再エネ事業への民間参入を促すなど今後いかに実効性を高めるかが鍵となる。
 欧州ではドイツが22年までの全原発閉鎖を決め、スイスも34年までに順次、運転を停止する方針を打ち出した。片やアジアでは電力需給が逼迫(ひっぱく)する中国やインドで新たな原発建設が続いている。
 福島事故を経験し、いまだ収束のめどすら立たない日本はどうか。
 原発依存からの脱却が世論の多数であるのに、逆に原発回帰が強まっている。再稼働の動きは急で、事故を教訓に導入した原発運転の「40年ルール」も形骸化しつつある。加えて安倍政権は原発輸出を成長戦略の一つに位置付け、インドなどへの売り込みに懸命だ。だが世界で最も「フクシマ」に学ぶべきは日本ではないのか。

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