[2017_01_17_02]【社説】 台湾の原発ゼロ 福島に学んで、そして(東京新聞2017年1月17日)
 
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【社説】 台湾の原発ゼロ 福島に学んで、そして

 「二〇二五年までに原発の運転を完全に停止する」。台湾は「原発ゼロ」を法律に明記した。併せて電力事業を段階的に自由化し、再生可能エネルギーへの移行を図る。福島に正しく学んだからだ。
 これは日本のことではないかと、錯覚に陥りそうになる。あるいは、日本でこそ起こるべきことではないか。
 昨年五月に誕生した台湾の民進党、蔡英文政権の背中を押したのは、福島第一原発の事故である。
 一衣帯水の隣国で起こった事故は台湾でも起こりうる−。
 フクシマから受けた衝撃は、同じ理由でいち早く二〇二二年までの原発廃止を決めたドイツ以上に、強烈だったに違いない。
 3・11に際し、台湾市民から世界でも多額の義援金が寄せられたことを思い出す。
 二五年という年限には明快な根拠がある。
 台湾の原発は、第一原発から第三まで三カ所六基。うち二基はすでに稼働していない。
 最も新しい第三原発が一九八五年の運転開始、すなわちすべての原発が、その年までに“四十歳”を超えることになる。日本でも原発の法定寿命とされている長さである。
 電力事業は公営台湾電力の独占で、前政権は第四原発の建設を手掛けていた。原子炉や発電機は、日本からの輸出である。
 しかし一四年四月の大規模な反対デモを受け、運転延期と工事停止を決めた。
 新増設は不可能と言っていい。従って、寿命を終えた原発を順番に停止させ、再生可能エネルギーに置き換えていくことで、自然にゼロにできるのだ。
 3・11の直後から、私たちがこの国で、再三指摘してきたことではないか。
 プレート境界付近に位置する大地震の多発地帯、海に囲まれた島の中、原発から出る核のごみの行き場がない。原子炉の老朽化が進み、3・11以降は、住民の多くが脱原発依存を望んでいる−。
 ほぼ同じ状況下にありながら、台湾ではなぜ、アジアで初めて原発ゼロを期限を切って法制化できたのか。
 台湾にあってこの国に欠けているものそれは、福島に学ぶ心、民意を聞く耳、そしてその民意を受けて、国民の不安を解消し、命を守ろうとする政治の意思である。
 福島に学んだ台湾に、この国も学ぶべきではないのだろうか。

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