[2016_12_01_01]<福島沖地震>津波で車避難 震災教訓どこへ(河北新報2016年12月1日)
 
参照元
<福島沖地震>津波で車避難 震災教訓どこへ

 福島県沖を震源とした11月22日の地震で津波警報が出た宮城、福島両県の沿岸部は、自動車での避難による渋滞が相次いだ。立ち往生した車が津波にのまれ、大勢が犠牲となった東日本大震災を教訓に、自治体の多くは要援護者を除き徒歩避難を原則とする。訓練ではできても、実際の避難行動に生かせない現実を突き付けられた自治体は、実態の詳しい把握と原則の周知徹底を急ぐ。(震災取材班)

<訓練の直後>
 福島県いわき市小名浜では、早朝の地震発生直後から内陸へ向かう県道(通称鹿島街道)が約3キロ渋滞。沿道のガソリンスタンドで給油する車も続出した。車で避難した男性(55)は「高齢の親がいて、車を使うしかなかった」と打ち明ける。
 ただ、やむなく車で避難した人だけとは限らない。
 市東部の沼ノ内地区は、高台の住宅団地に向かう県道が混んだ。市の防災訓練が11月5日にあり、地区でも徒歩による避難訓練を実施したばかりだった。
 「いざとなると、やはり車で逃げてしまう。地区の7、8割の人が使っただろう」と区長の遠藤欽也さん(72)。原発事故の再発を懸念し、「遠くへ逃げなければならないという心理も働いた」とみる。国道6号など市内の大動脈も、廃炉や除染作業に向かう車で混む時間帯と重なった。
 宮城県石巻市では中心部の日和山に通じる道が混雑し、旧北上川河口の日和大橋も渋滞した。石巻署によると、目立ったのは県外ナンバー。多くがスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」のキャラクター探しに来た人という。土地勘のない来訪者をどう避難誘導するかという課題も浮上した。
 徒歩で避難した人は、安易な車避難を疑問視する。
 福島県相馬市原釜地区の佐々木正和さん(65)は、立ち往生する車列を避けながら家族らと歩いて高台の公民館に向かった。駐車場は車で埋まり、道路にもあふれていた。「これでは救急車も通れない。徒歩で避難の途中、先を急ぐ車にはねられてしまうかも。震災の教訓は忘れ去られた」と憤る。

<実態調査へ>
 自治体は理想と現実の落差に頭を抱える。
 「原則徒歩避難」が地域防災計画に明記された宮城県多賀城市では高台へ向かう道路に避難する車が集中。市交通防災課の担当者は「命も車も失いたくない気持ちがあるのではないか。原則を繰り返し呼び掛けるしかない」と話す。
 岩手県釜石市は浸水想定区域を走行中に津波警報が出た場合、路肩か駐車場に停車し、鍵を付けたまま徒歩で高台に避難する指針を定めた。今回は注意報だったとはいえ、高台の釜石小では車で避難した人が多かった。千葉博之防災危機管理課長は「警報時は車を乗り捨てるしかないことを訓練などで訴える」と強調する。
 石巻市は市民アンケートを実施し、車避難の実態を調べる方針。いわき市も課題を検証する考えだ。
 車避難に詳しい岩手県立大の宇佐美誠史講師(交通工学)は「車による避難は、道路が損傷していないとの甘い見通しに基づく行動。渋滞は救助活動や被害把握の妨げにもなる。リスクの高さが被災地ですら共有されていない」と指摘する。

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