[2016_11_23_09]地震のたび「原発大丈夫?」いつまで 脱原発ビジョン示さぬ限り 福島第二の核燃料プール冷却停止 楢葉町民 不安また不安 「5年前の爆発を思い出した」3.11のトラウマ 国民多くが抱える 政府「問題ない」に不信感(東京新聞2016年11月23日)
 
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地震のたび「原発大丈夫?」いつまで 脱原発ビジョン示さぬ限り 福島第二の核燃料プール冷却停止 楢葉町民 不安また不安 「5年前の爆発を思い出した」3.11のトラウマ 国民多くが抱える 政府「問題ない」に不信感

 二十二日早朝の福島沖地震では、東京電力福島第二原発3号機(福島県富岡町、楢葉町)の使用済み核燃料プールの冷却装置が一時停止した。幸い大事には至らなかったものの、多くの人が肝を冷やしたに違いない。3・11以降、災害が起きるたびに「原発は大丈夫か」との心配が頭をよぎる。地震大国ニッポンで原発再稼働に血道を上げる愚。いつまで事故の恐怖におびえ続けなければならないのか。 (木村留美、安藤恭子)
 福島第二原発が立地する楢葉町の住職早川篤雄−とくお−さん(七七)は「真っ先に頭をよぎったのは、原発は大丈夫かということだった」と振り返る。
 東京電力によると、午前六時十分ごろ、3号機の使用済み核燃料プールの冷却水を循環させる系統が地震の影響で自動停止。安全を確認した上で午前七時四十七分に冷却を再開させた。プールには核燃料二千五百四十四体が保管されているが、水漏れや放射性物質の漏えいはないとしている。
 早川さんは、あらためて原発への憤りを感じている。「第一原発は、大きな津波が来たらひとたまりもないのではないかと、地震が起こるたびに冷や冷やする。第二原発も使用済み核燃料を取り出さない限り、不安は払拭されない」
 楢葉町議の結城政重さん(六九)は、避難先の福島県いわき市で今回の地震に遭遇した。「3・11のように原発が爆発するのではないかと怖かった」
 第二原発の四基は、二O一一年三月の東日本大震災以降、停止中だが、東電は再稼働に含みを残している。結城さんは「地震自体は揺れが収まればすむことだが、原発はそれだけですまない。議会の中にも第二原発は再稼働すべきだという人がいるが、あり得ないことだ」と憤る。
 富岡町から福島県会津若松市に避難中の主婦古川好子さん(五三)も東電や政府の姿勢が許せない。「立地自治体の人たちが経済的な理由から動かしたい気持ちは分からないわけではない。でも、原発事故が起きた時の被害はあまりに大きい。五年前の事故をなきものにしようとして再稼働しようとする政府や東電にはふざけるなという思いだ」
 国内以上に海外の関心は原発に向いている。英BBC放送(電子版)は「地震による原発明損傷の兆候はみられない」と断った上で、3・11の福島第一原発事故の被害に触れた。ロイター通信も、第一原発など周辺の原発の状況を伝えた。英経済誌「エコノミスト」のデイピッド・マックニール記者は「日本政府の原発に対する発言を海外メディアが信用していないからだ」と指摘する。
 「世界的に見ればフクシマはチェルノブイリ事故と同列に考えられている。安倍晋三首相が『アンダーコントロール(制御されている)』とアピールしても、実際にはいろいろな問題がある。福島での地震と聞けば、原発を思いおこすし、記者らも五年前の地震への思い入れもあるだろう」
 日本を訪れている外国人旅行者からも不安の声が漏れた。東京駅近くで母親と買い物中のシンガポール人女性(二七)は「ホテルで寝ているところに地震がきた。シンガポールでは地震がないので驚いた。原発の放射能が心配になった」。
 米国人女性(三二)らは「報道で地震を知った家族から心配するメールが届いた」と困惑した様子だった。
 最大震度7の地震が連続して起きた四月の熊本地震では、稼働中の九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)への影響が不安視された。政府は最初の揺れから二日後に「プラントの状態や、モニタリングポストに異常はない」と発表。同市では震度4が観測されたが、原子炉を自動停止させるレベルよりかなり小さいとされ、運転は継続された。
 七月の県知事選では県民の不安も背景に、川内原発の一時停止を公約に掲げた三反園訓氏が初当選した。九電に即時停止を求めたが拒まれた。ー号機では、定期検査と並行して熊本地震の影響を調べる「特別点検」を実施しているが、2号機は稼働中だ。
 豊後水道を挟んで四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)から最短で約四十五キロの大分県では、復数の市町議会が、再稼働への反対や慎重な対応を求める意見書を可決した。原発に近い日本最大の断層帯「中央構造線」の活発化を恐れてのことだが、政府は原子力規制委員会の新規制基準の審査に適合した原発は再稼働させる方針で、八月には3号機が再稼働した。
 「政府や電力会社が言う原発の状況に不信感がある」と話すのは、川内原発建設反対連絡協議会会長の烏原良子さん(六八)だ。熊本地震で最初の大きな揺れがあった後すぐに、同原発の事務所に状況を電話で問い合わせたところ、「大丈夫です」と即答されたという。「点検中と言ってくれれば、まだ信用できたのに」と顔をしかめる。鹿児島に震源地が広がることを恐れ、高速道路や新幹線が使えなくなる現実を知ったことで「市の避難計画なんて役立たず。熊本のような地震がここで起きたら、逃げられない」と確信した。
 十月には鳥取県で震度6弱の地震が発生。中国電力島根原発(松江市)は運転停止中で異常は確認されなかったが、原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「多くの国民が地震と原発事故を結び付けて見るようになった。熊本、鳥取と続けば、次は原発が立地する中央情造線や南海トラフ沿いで起きないか心配する心理がはたらく」と説く。
 伴氏は、メルトダウン(炉心溶融)の公表が遅れるなどした福島事故を機に、災害時の原発広報が信用されなくなったとみる。
「十分な根拠を示さず拙速に『問題はない』と発表するやり方は、熊本地震も福島沖地震も通底し、国民の不安を解消できない」
「十分な根拠を示さず拙速に『問題はない』と発表するやり方は、熊本地震も福島沖地震も通底し、国民の不安を解消できない」
 いつまで不安を抱え続けなければならないのか」 精神科医の香山リカ氏は「多くの国民が3・11の不安をトラウマ(心的外傷)として抱えている。原発の冷却ができないといった今回の情報は当時をフラッシュバックさせ、原発の爆発や、食べ物の放射能汚染など、先を見越した『予期不安』が心の中で起きている」と分析する。

ネット上などで原発への不安を口にすると非難される風潮も、ストレスを高めているようだ。香山氏は「政府が再稼働を進めれば、原発はいつ終わるとも知れないので、事故への恐怖は洛ち若くことがない。今すぐでなくとも、将来的に全ての原発を廃炉にしていくんだというビジョンを示さない限り、国民が抱える不安感は今後も増す一方だ」と警鐘を鳴らした。

(デスクメモ) 前夜までは、韓国大統領のスキャンダルを取り上げようかと知恵を絞っていた。朝、長い揺れで目を覚ます。テレビをつけると、アナウンサーが切迫した調子で「今すぐ逃げてください」と呼びかけていた。ここは地震でやるしかない。「原発は大丈夫か」。率直な気持ちを紙面化した。(圭)  2016・11・23

地震の影響で使用済み核燃料プールの冷却装置が一時停止した東京電力福島第二原子力発電所3号機=22日午前11時50分、福島県富岡町で、本社へリ「まなづる」から
津波警報が発令された福島県いわき市内の河口付近で警戒する人たち=22日午前6時39分
首相官邸前で原発再稼働に反対する人たち=18日、東京・永田町で

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