[2016_07_28_05]永田町の裏を読む 福島第1原発「凍土壁」の失敗で東京五輪返上が現実味 高野孟(日刊ゲンダイDIGITAL2016年7月28日)
 
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永田町の裏を読む 福島第1原発「凍土壁」の失敗で東京五輪返上が現実味 高野孟

 7月19日に開かれた原子力規制委員会の有識者会合で、東京電力が福島第1原発の汚染水対策の決め手となるはずだった「凍土壁」建設が失敗に終わったことを認めた。本来なら各紙1面トップで報じるべき重大ニュースだが、ほとんどが無視もしくは小さな扱いで、実は私も見落としていて、民進党の馬淵澄夫の25日付メルマガで知って慌てて調べ直したほどだ。
 これがなぜ重大ニュースかというと、安倍晋三首相は13年9月に全世界に向かって「フクシマはアンダー・コントロール。東京の安全は私が保証する」と見えを切って五輪招致に成功した。これはもちろん大嘘で、山側から敷地内に1日400トンも流れ込む地下水の一部が原子炉建屋内に浸入して堆積した核燃料に触れるので、汚染水が増え続ける。
 必死で汲み上げて林立するタンクにためようとしても間に合わず、一部は海に吐き出される。そうこうするうちにタンクからまた汚染水が漏れ始めるという、どうにもならないアウト・オブ・コントロール状態だった。
 それで、経産省が東電と鹿島に345億円の国費を投じてつくらせようとしたのが「凍土壁」で、建屋の周囲に1メートルおきに長さ30メートルのパイプ1568本を打ち込んで、その中で冷却液を循環させて地中の土を凍結させて壁にしようという構想だった。
 しかしこの工法は、トンネル工事などで一時的に地下水を止めるために使われるもので、これほど大規模な、しかも廃炉までの何十年もの年月に耐えうる恒久的な施設としてはふさわしくないというのが多くの専門家の意見で、私は14年1月に出した小出裕章さんとの共著「アウト・オブ・コントロール」(花伝社)でこれを強く批判していた。馬淵もこの問題を何度も国会質問で取り上げて、別のやり方への転換を主張してきた。
 凍土壁は6月にほぼ完成したが、汚染水がなかなか減らず、規制委は「壁になりきらず、隙間だらけで地下水が通り抜けているのでは」と疑問を突きつけた。慌てた東電は「凍土が形成されていないかもしれない箇所にセメントを流し込む」などの弥縫策をとったが、やはりダメで、19日の会合でついに「完全遮蔽は無理」と告白した。つまり、安倍の大嘘を後付けのにわか工事で隠蔽しようとした政府・東電のもくろみは失敗したということである。
 これが国際的に知れ渡れば、リオのジカ熱どころではない、選手の参加取りやめが相次ぐに決まっている。東京五輪は返上するしかないのではないか。

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