[2016_07_17_01]原子力規制委に地震動の専門家がいない! 大飯原発・基準地震動の過小評価は深刻_岡田広行(東洋経済オンライン2016年7月17日)
 
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原子力規制委に地震動の専門家がいない! 大飯原発・基準地震動の過小評価は深刻_岡田広行

 関西電力・大飯原子力発電所の耐震安全性をめぐる問題で、2014年9月まで原子力規制委員会でナンバー2(委員長代理)を務めていた島崎邦彦・東京大学名誉教授(地震学)が、「原発が大地震に見舞われた場合の実際の揺れは現在の基準地震動(想定される最大の揺れ)を上回る可能性が高い」との見解を7月15日の記者会見で明らかにした。
 規制委は6月、島崎氏から大飯原発の耐震設計の基礎となる基準地震動算定で関電の計算に過小評価の疑いがあると指摘されたことを受けて、現在の計算方法を手直ししたうえで新たに検証計算を実施。その結果を踏まえて「耐震安全性には問題がない」との結論を7月13日付けで出したばかりだった。ところがその2日後、地震学の専門家である島崎氏から「基準地震動の過小評価は明らかだ」と、まったく逆の意見を突き付けられた。
 規制委は7月19日に急遽、島崎氏を招いて意見交換の場を持つことになったが、規制委の耐震審査のやり方そのものが信頼性を問われる形になっている。

基準地震動の計算は再びやり直し?

 7月13日の規制委会合で田中俊一委員長は、「島崎さんには原子力規制庁の事務方から試算結果を説明し、ご納得のうえで安心したとおっしゃっていただいた」と説明した。だが、15日の記者会見で島崎氏は納得どころか規制庁による試算方法のおかしさを指摘。「今回の規制委の議論および結論には納得できません」と記した田中委員長宛ての書簡の写しを配布した。「この問題の議論は打ち切り」(7月13日の規制委会合での田中委員長の発言)になるはずだったところが、規制委は基準地震動を再々計算しなければならない状況に追い込まれている。
 島崎氏が大飯原発の基準地震動評価について問題提起した経緯は、6月20日の記事 「元原子力規制委員が大飯原発の危険性を警告」 で詳しく述べている。その要点をかいつまんで説明すると、関電が大飯原発の基準地震動を計算するうえで採用した「入倉・三宅式」と呼ばれる活断層評価のモデル式を用いて地震モーメント(地震の震源の大きさ)を試算した場合、実際よりも過小評価となる可能性が高いというものだ。その結果として、基準地震動の過小評価にもつながり、ひいては原発の耐震安全性に懸念が持たれることになった。
 島崎氏からのこうした指摘を踏まえて規制庁は今般、「武村式」と呼ばれる別のモデル式を使用して基準地震動の試算をした。ところが島崎氏によれば、「規制庁による計算と関電の計算ではパラメーターの設定に違いがあるうえ、規制庁の計算では不確定性がきちんと考慮されていない」という。要は正しく比較検討されていないというのだ。
 島崎氏の田中委員長宛て書簡によれば、「あくまで私の試算」(島崎氏)だとしたうえで、武村式を用いた場合の加速度が大飯原発の基準地震動である856ガルを大幅に上回るとの結果が記されている。記者会見で島崎氏は慎重に言葉を選びながら、「数字は推定ではあるが、現在の基準地震動を超えてしまうことは確かだ。かなり問題がある」と述べた。島崎氏は「試算結果の数字が一人歩きされると困る」というが、試算結果の一部(最大値1550ガル)は関電が2011年に公表した大飯原発3号機のストレステストで「クリフエッジ」(安全限界)とされる1260ガルを大幅に超えている。対策をせずに放置した場合、炉心溶融など過酷事故につながるおそれもある。

原発再稼働そのものに赤信号も

 大飯原発の再稼働の前提となる安全審査会合で当初関電が示した基準地震動は700ガルだった。その後、規制委との議論を経て856ガルに引き上げておおむね了承を取り付けた経緯がある。これを踏まえて関電は重要設備の耐震補強を進めつつある。
 それだけに、「856ガルでは足りない」(島崎氏)ということになると耐震設計を見直さなければならず、安全対策費用は急膨張が必至だ。のみならず、近隣住民の不安の高まりから、再稼働そのものに赤信号が点滅する可能性もある。
 7月13日の記者会見で田中委員長は、大飯原発と同様に地震動評価に「入倉・三宅式」を用いている関電・高浜原発や九州電力・玄海原発について、地震動評価をやり直す必要はないとの認識を示した。だが、大飯原発で持ち上がった疑問を解消できなければ、高浜や玄海で「試算をやらなくていい」ということにはならないだろう。
 さらに深刻なのは、規制委による地震動評価の信頼性に疑念が生じていることだ。島崎氏が委員長代理を退いた後、現在の5人の委員の中には地震動評価の専門家はいない。
 今回、島崎氏から提起された指摘に的確に答えられる委員がいない状況は、原発の安全審査を進めていくうえでも大きな問題だ。
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